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CrossOver__02



 ――実に、この世界は驚くことの連続だ。
 大きな鉄のカタマリが空を飛んだり、石や木以外の材質の建物が乱立していたり。
 あまつさえ、ぬいぐるみが動いていたり。
 世界が違うのだから、文明自体も異なっていてなんら不思議はないわけだが、これが驚かずにいられるか。

 だけど、何より驚いたのは、この世界では魔法を使うのにマテリアとかいうものが必要なんだってことだった。


 手のひらに載せた小さな球状の物体を、ころころと転がしてみる。
 優しい緑のそれは、回復用のマテリアなのだとクラウドは云った。
 あと、脇のテーブルには、赤、青、黄、ピンクのマテリア。
 それぞれが、それぞれの特性を持っているのだそうだ。――覚える気はないが。

「……たぶん要らないわよ、これ」

 ぽーん、とそれをクラウドに投げやって、わたしは告げた。
 テーブルをはさんだ向かい側では、クラウドが苦い顔でマテリアをキャッチしているところ。
 ちなみにここがどこかというと、彼らの飛空挺・ハイウインドのなかの会議室のような場所だ。
 長方形状に配置された机の片側の長辺をわたしが占領し、向かい側の長辺をクラウド一行が使用している。もっとも、猫とモーグリのぬいぐるみことケット・シーだけは、座りようがないために壁際にいるわけだが。
 そうそう。
 彼らの名前は、ここに来て初めて知った。
 クラウドは除外して、バレット、ティファ、シド、ケット・シー、レッドXIII、ヴィンセント――甲板で船酔いと戦ってるユフィ。
「マテリアなしで魔法が使えるって本当なの?」
「まあ、そうなるわ」
 ティファの問いに、自慢するでもなく応じる。わたしにとっては、それが自然なのだから。
 なんとなし信じがたそうな表情のままの彼女――プラス、他一同。
 そうね、とつぶやいて、わたしはざっと彼等を見渡した。
「――ティファ、ヴィンセント、それに……バレット。失礼」
「「「え?」」」
 聞き返す、彼らのことばに重ねて。

「……“命支える大地よ、我を庇護したまえ――止め置け”」

 つむぐのは、ドンムブの詠唱。
 わたしが口を閉ざすと同時、彼らの周囲を鈍黄色の光が薙いだ。
「立てる?」
 問うと、彼らはすぐさま立ち上がろうと上体をかしがせ――

「え……!?」

 異口同音に驚愕の息をこぼし、その場に凍りつく。
 上半身は起き上がろうとしているのに、腰から下が凍りついたように動かせない。
 ドンムブ。
 見てのとおり、相手の……主に脚部の神経統を一時的に麻痺させ、移動を封じる時魔法だ。
「少し時間が経てば、解消されるわ」
 ちょっとうろたえている彼らに、少しばかりすまなく思いながらそう教えた。
「マテリアに意志を反映させて魔法を現出させるより、詠唱に要する時間が必要だけれど。まあ、別の手間はかからずにすむわね」
「へーえ……本当に別の世界の人間なんだなぁ」
 感心しきったシドのことばに、だけど、わたしは苦笑い。
「まあ、ぱっとは信じられてないと思ったけど」
 そうして、視線を正面に戻す。
 気づいたクラウドが頷いて、一同を見渡した。

がここに来た理由は、さっき云っていたとおりだ。俺の精神の一部がイヴァリースという異世界に逃げて、実体を持った。そこで世話になったんだ」
「それで、こいつが帰る間際に、世界と世界がリンクしただかなんだか……わたしの後ろにウェポンとやらがわいて出て、危ないと手をひこうとしたら、一緒くたに引き込まれたわけ」

 さっきはふたりだけで納得していたそれを、今度は全員に話して聞かせる。
「で、戻りたいのは実にやまやまなんだけど、それだけの魔力をわたしに貸すほど、この世界――星は元気じゃないのよね?」
「ああ」
 神妙な顔で、バレットがうなずいた。


 彼らの話も、かなりかいつまんでだけれど聞かせてもらった。
 わたしやクラウドが乗ってきた流れ――ライフストリーム。それこそが星を巡る命の源。大いなる力。
 人間たちはそれをエネルギーとして利用することで、繁栄してきた。わたしたちの世界の、蒸気等と同じ感覚で。……限りあるそれがいつか枯れたときのことなど、考えずに。
 いや、それでも、本来ならばまだ枯れる時は遠い未来の話だったはずらしい。
 さて。ここで話は一旦、遠い過去へと移る。
 空から降ってきた災厄、ジェノバという生き物が、星の北に巣食ったというのだ。
 長い長い時間をかけ、それは今も、星のエネルギーを自らに取り込みつづけているという。
 もちろんそれは、この星にとっての敵だ。
 星の意志を聞いたセトラ――今では滅びた、古代種と呼ばれる一族――が、ジェノバと戦った。が、何か奇妙な能力で、セトラのほうが手痛い反撃を食らってしまったそうだ。
 それでも残ったセトラは、なんとかジェノバを封印した。が、滅びたわけではないそれは、少しずつ少しずつ、星の生命を食らっていたらしい。
 そして、この時代。セフィロスという青年がジェノバに取り込まれた。いや、取り込まれたというのは正しくないか。
 何しろその青年、ジェノバの力を逆に利用して、空に浮かぶ大きな星――メテオを呼び込み、すべてを破壊しようとしているのだそうだから。
 ・・・たいした胆力だ。
 それだけの意志力があるのなら、そんなわけの判らないものに影響されないでほしいものなんだけど。
「神、ね」
 セフィロスが口走っていたというその単語を舌に乗せると、苦虫でも飲み込んだような感情がわきおこる。
 それはそうだ。
 なにしろ、ラムザと共にわたしたちが倒したのは、それこそ神の御使いと呼ばれた存在だったのだから。

 それで、と、シドが紫煙をくゆらせる。
「あんたもオレたちと来るってーのかい?」
「出来れば、そうさせてほしいんだけど」
 わたしがこっちに来た原因の半分は、こいつにあるんですから、と指差すと、チョコボ頭がぎこちなく揺れる。
「それに、今、星を救おうと動いてるのはあなたたちだけなんでしょ? だとしたら、わたしの目的をかなえるためには、それが一番の近道だもの」
「なるほどね。理に適ってるな」
「――どうだろう。みんな。が一緒に来ることに、賛成してくれるか?」
 頷くバレットの横で、クラウドが問いかける。
「どうもこうもないじゃない」
 真っ先に、ティファがそう云った。
「私は賛成。クラウドがお世話になったのもあるし、クラウドが、彼女をこちらに引きずり込んだ原因でもあるし」
 う、とクラウドはうめく。どうにも、この女性には弱いらしい。
 とはいえ、反論しないところを見ると、一応、原因の一部をつくった自覚はあるようだ。
 ――というか今気づいたんだけど、ムスタディオがそもそも彼をイヴァリースに引き込まなきゃ、こんな事態にもなってなかったわけじゃない。
 まさか発掘者のベスロディオさんに当たるわけにいかないし……
 うん。
 帰ったら真っ先に、ムスタディオにホーリー強化版(エクスカリバー、白のローブ、魔力の小手、聖職者の帽子装備、サポートアビリティに魔法攻撃力UP)ぶちかまそ。



   「どうしたんだい? ムスタディオ」
   「……い、いや、なんか今、この世のものとは思えないほどの寒気が……」



■BACK■



つづきました。02です(笑

何気にムスタディオに死の宣告かましつつ、後半飛び入り。
セフィロスの解釈がかなりフィルタかかりますが、
それでもよろしければ、どうぞお付き合いくださいませ。