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CrossOver__05



「――後ろッ!」

 叫びに応え、クラウドたちは一斉にそこから飛び散る。
 残像が消える前に、大きな機械の腕が、それを霧散させた。
 労働八号でもいたら、いい勝負になったかしら。そんなことを考えて、笑みがこぼれる。
「魔法は効くの!?」
 乗り物に向かいだしたレノは放り出し、わたしはクラウドたちのほうに走り寄る。
 イヴァリースで、常にイノセンな労働八号を見ていたクラウドは、首をかしげたユフィやヴィンセントとは対照的に大きく頷いた。
「ああ! こっちの機械系は、たいていがサンダー系で動きが鈍る!」
「そう? じゃあ、せっかくだからサンダジャいこうかな」
! 嬉々としてないでさッ! 危ないって!」
 機械型の敵への魔法は、サンダー系がお勧め、と。
 頭のなかのメモに記録したわたしの横から、ユフィが必死の形相で叫ぶ。
 はたと気づけば、接近していた機械の腕が今まさに、撲撃を加えようと振り上げられたところで。

 腕が振り下ろされる。
 予想外に素早い動きに重心の乗った一撃。
 飛び退れば、叩きつけられた床がえぐれて、欠片が頬をかすめていった。
「“天と地の精霊たち”――」
 呪文をつぶやく。
 ヴィンセントの撃ちこんだ銃弾が、関節に食い込んで動きを鈍らせた。
「“彼らの怒りを今こそ刻め”――」
 ユフィはたしかに攻守に目覚しい動きを見せているが、戦いの弾みで機械からこぼれるマテリアを真っ先に拾いに行くのはどうにからならないもんだろうか。
「“神をも”――」
!」
 頭上を掠めた機械の腕。
 大きく開いたその懐に、寸でのところでわたしを突き飛ばしたクラウドが走りこむ。
 あやうく中断しかけた詠唱の矛先を、思わず彼に向けようとしたが、なんとか理性で押し留めた。

「クライムハザードッ!!」
「“弑す一撃となれ!”」

 クラウドの放つ閃光に、サンダジャの雷撃が混じり合う。

 手で覆ってもなお、目を貫いていく光の奔流。
 身体の芯まで震えさせる衝撃。
 雷が機械の表面を走る音に、クラウドの剣が金属をこすり削り、そして叩き切る音。


 そうして。
 それらがやんだときには、すでに、機械は原型を留めておらず、ただの金属の塊へと成り果てていた。


 ――でも、そのことに喜ぶ暇は無い。


「あーッ! 潜水艦が行っちゃうよ!!」

 最後に転がり落ちたマテリアをひろったユフィが、赤い乗り物――潜水艦というのか――を指差して、叫ぶ。
 大きな鉄の塊が、海中に沈んでいく様は、なかなか壮観だ。
 どうやら、海中を航行する乗り物らしい。飛空挺なんてものがあるのだから、当然なのかもしれない。……つくづく、目を疑うことばかりだ。
 武器をしまう間も惜しいとばかりに、わたしたちは走り出した。
 だが、わたしたちが辿り着くより先に、赤い潜水艦は海中にその身を沈めていく。
 さすがに、生身の人間が、海中での航行を専用につくられたらしいものを、追いかけていけるわけがない。
「ならば、こちらも同じものを使うのみだ」
 マントをひるがえして、ヴィンセントが走る方向を変えた。
 その先には、まだ発進準備が出来ていないのだろう。兵士達がいるものの、微動だにしていない銀の潜水艦がある。
「わっ、わわわーっ!」
 こちらの目的を察した兵士たちが銃を乱射するけれど、狙いも定めていないそれが、容易に当たるわけもない。
 あっという間にわたしたちは、銀の潜水艦へ辿り着いた。
 先行したクラウドが、兵士たちを薙ぎ払う。後方はヴィンセントが銃で威嚇し、ユフィは……
「ユフィ! 何してるの!」
 まだ潜水艦へ走りこまず、その脇に積んであった、何かの箱をこじ開けていた。
「え、だって、なんかお宝の匂いがするんだよコレ!」
「ユフィッ! 箱ごと持ってくればいいでしょう!」
「それもどうかと思うぞ……」
 何故か疲れたようなヴィンセントのつぶやきが聞こえたが、ユフィは、ぽんと手を打った。
 軽々と抱え上げたところを見ると、さして重さのはるものでもないのだろう。
「クラウドー!」
「うわっ!? ちょっと待てユフィ!」
 にやりと笑った彼女は、クラウドに、狙い定めて箱を投げつけた。

 ……たしかに、いちばん乗り込み口に近い場所にいた彼にキャッチさせるのは、効率的かもしれないが。
 相手がキャッチできる状態かどうか、ちゃんと見極めろというのは、こと彼女に関しては無駄なお小言なのだろうか。



 顔面でキャッチしたユフィ曰くの『お宝の箱』を抱え、クラウドがまず、内部に身をすべりこませる。
 続いてわたし、追いついてきたユフィ。最後に、しつこくちょっかい出してくる兵士たちを牽制していたヴィンセント。
 ヴィンセントが内側から鍵をかけている間に、わたしたちは、通路にいた兵士ふたりを叩きのめし、縛り上げた。さすがに、この密閉された空間を血に染めるほど、豪胆なつもりはない。
「奥が操縦席だ!」
 兵士が残っている可能性も考え、武器を構えたクラウドが扉を蹴り開けた。
 場所が場所なせいか、その音はやけに大きく響く。
「……クラウド?」
 だが、その名残が消えるほどの時間が立っても、クラウドは、扉の前から動かなかった。
 中に入ろうとも後ずさろうともせず、なんだか肩が落ちて脱力しているように見えるのはわたしの気のせいだろうか?
 攻撃される様子もないが、兵士はいないのだろうか? だが、クラウドの背中が邪魔で見ないものの、向こう側には確かに人の気配がする。
 いったい何かと、わたしとユフィは、それぞれクラウドの左右から頭を覗かせた。
 そのときだ。

「隊長ォォォォ〜〜ッ! もうだめであります!」
「自分は悔いが残るであります! 実戦で一度もスペシャルポーズを決めたことがないでありますッ!」
「うっっし!! それでは、この戦いに初勝利し! 見せつけちゃるのだ〜〜!!」
「はっ!!」
「よし! 最後の訓練、はじめ〜!!」

 ざっ、くるくるくるくるくる、ざっ、くるくるくるくるくる、ざっ、くるくるくる……エンドレス。

「・・・・・・」

 わたしたちがぽかんとして見守るなか、なんだか風変わりな隊長とその部下らしい兵士二名は、どこかで見たようなポーズを繰り返す。
「……どうしよう」
 ぽつり、と、クラウドがつぶやいた。
 困惑しているのがよーくわかる。かくいうわたしも、同じような気分だ。
 ユフィなんか生ぬるい笑みで固まってるし、背後ではヴィンセントがこめかみをおさえるのがちらりと見えた。

 もしかして、これも時間稼ぎの一種なのだろうか。
 だとしたら、なんてユカイな集団だろうか、神羅とかいう団体は。

 わたしたちが放心していた時間と、彼らが最後の訓練とやらを行った時間は、ほぼ同じだった。
 ぐるっと隊長が振り返り、わたしたちにサーベルを向ける。
「待たせたなッ! もう思い残すことはないッ!」
 普段なら実に勇ましい、また、応えて戦いを始めるには絶好の合図だった。
 が。
 クラウドは脱力したまま、空いた側の手で頬をかき、
「……捕虜にしとこうか」
「「「うん……」」」
 全員が、頷いた。



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05です。続いてます。
どうなってんだこれ。

この隊長と部下たちも大好きですよ、楽しくて。