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CrossOver__09



 淡く輝くエメラルドの奔流が、彼の周囲で渦巻いている。
 本来は銀色である彼の髪は、周囲の輝きを反射して、やはり、強くその色をまとっている。
「…………」
 彼は、無言で立ち尽くす。
 気を抜けば、すぐに足場は崩れ落ちよう。
 支えがなくなれば、この身は、奔流に呑まれるのみ。
 それだけはならない。
 それだけは、させない。
 でなければ――
「なんのために……」
 判らなく、なってしまう。今度こそ。

 奔流は、彼に知識を与えた。
 JENOVAについて。
 彼について。
 この星に廻る、すべてのものについて。

 それらを受け入れてなお、彼は彼であるだけの強さが在ったのだ。
 いや、この奔流に一度落ちたからこそ、彼は彼のままであれた。
 ――長い、長い眠りを必要とはしたけれど。

 そうして。
 血と炎に狂っていた男は、奔流に飲まれ、そこに眠る数多の知識と心を叩きつけられ、――知ったのだ。

 JENOVAについて。
 彼について。
 この星に廻る、すべてのものについて。

 ――近く訪れるであろう、星の死について。

「フ」

 張り詰めた意識を、立て直すためか。
 一文字に結ばれていた唇が、笑みの形に持ち上がる。
「一度は道化と化した身だ」
 いまさら、未練などはない。

 ただ、あるとするならば。

 ――セフィロス?

 ふわりとこの名を呼んで過ぎる、声の主。
 ――どしたの? 辛い? 力、もちょっと貸そうか?
「いい」
 おまえには、おまえのやるべきことがあるだろう。
 ――そうだけど。でも、セフィロスが倒れたら、それの意味なくなっちゃうもの。
「ふむ」
 ふわり、傍を凪ぐ風の流れに従って、彼は首を傾げる。
 その片手に握ったモノが、チチ、と笑った。
「……煩いな」
 『JENOVA』
 そう刻まれたプレートが、そのモノの額にはある。
 首から下のない、ただの頭。
 生きてなどいようはずのないソレが、たった今の笑みの主。
 傍らの風が、不快な気持ちを伝えてくる。
 ――ヤだね。それ。
「ああ、嫌だ」
 存在もそうだが、何より、
「オレではこいつを殺せんというのがな」
 一度は英雄と呼ばれておいて、それはなんという体たらく。
 身動きさえ出来ぬ、まして首だけの相手に、とどめをさせないなどと。

 だが、それが、JENOVAを“母”として生まれた、彼の枷。

「フン」

 小さく鼻を鳴らして、彼は、視線を頭だけのモノからそらした。
「そうやって、見くびっているがいい」
 ――チチ、と、笑みが聞こえる。
「黒マテリア、白マテリア……」
 それを無視して、彼は、ゆっくりとその名を挙げた。
 重ねて、風が後につづける。
 ――メテオとホーリー。古代種の遺した、魔法。

 究極の破壊魔法、メテオ。
 その対である、ホーリー。

 このふたつの究極魔法が衝突するとき、どれほどのエネルギーが生じようか。
 真っ直ぐに、この星の傷痕を目指してくるであろうメテオと。
 星の精神エネルギーの集結しているここを、起点とするだろうホーリーと。

 だが、まだ、そのときではない。

 ――ちから、足りないもんね。おまけに、

 ふぅ、と、風の吐息にため息が混じる。
 ふてくされているような、憂えているような。
 ――だれかさんが、星のエネルギー導く役目の人を、星のエネルギーそのものにしちゃったし。
「…………」
 彼は、応えない。
 ふふっ、と、それを見て風が笑う。
 ――わかってるよ。あれは、あなたじゃないあなただもんね。
「意地の悪い……」

 ――わたしが、外から。

 風はうたう。

 ――みんなが、中から。

 ――それで、うまく動かせるはず、だったんだけど。

 みんなというのが何者なのか、彼は理解していた。
「まったく……古代種というものは、丈夫な魂を持つものだ」
 ――それ、誰でもできることよ?
「誰もが、忘れたんだろう」
 ――そうかも。
 風の答えは、やっぱり笑み混じりだ。

 ――でも、ほら。

 そういうの、覚えてる人、呼んだから。

 ――外からの声は、だいじょぶ。

 あとは、全部をここに集めるだけ。



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09です。たくらんでる人たちです。
まあその、要するに、そういうこと――なのですね。