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CrossOver__13 |
「な……なんだ、何が起こった!?」 予想外のことなのだろう、シドがあわてて周囲を見渡す。 「シド!」 ティファが、目の前の機械を示した。 潜水艦で見たものを思い起こさせる、何かのパネル。さきほどまでは暗く沈黙していたそれらが、目まぐるしく点滅を始めていた。 この光景が示す事実は、たぶん、ひとつ。 『うひょっ!』 わたしたちの間に走った緊迫を押しのけて、耳に入れるのさえ生理的に辛い声が聞こえた。 機械を通しているせいか、ノイズがかって――そのおかげで変容しているのだろう、かろうじて耐えられるほどだが。もし直に相対していたら、間違いなくフレアぶちかましてる。 「パルマー! てめぇ、何しやがった!!」 その声に向かって、シドが怒鳴る。 知った相手なのだろうか、声の出た機械を睨む、クラウドたちの視線も鋭い。 ……で。 シドの問いに応え、そのパルマーという男は、とんでもないことを口にしてくれた。 『オートパイロット装置、修理完了だってさ。だから打ち上げだよ〜ん』 「「なっ!?」」 「なんだってぇ!? シエラのヤツ、今日に限って早い仕事かよッ!?」 ……ところで、だ。 声からして、パルマーというのは、おそらく中年から壮年の男だと思う。 だが、何だ。この、すさまじく気の抜ける、どころかそれを通り越して腹立たしささえ感じるこの口調は。 怒りに震えるわたしを余所に、彼らの会話は続いていた。 シドが、さっきわたしたちを押し出そうとしてた扉に飛びついて、ガタガタと揺する。 だが、鍵どころか封印されたように、扉はびくともしない。 「クソったれ! びくともしねぇッ!!」 「完全にロックされてる……!」 同じく扉を揺さぶったクラウドが、歯ぎしりも高く、その事実を肯定した。 そこにまた、パルマーの声。 『うひょひょっ! もうすぐ発射だよ〜ん!』 「ええいッ!」 げしっ、と、シドが扉を蹴り飛ばす。 「秒読みはどうした、秒読みは! 気分が出ねぇぞ!!」 もはやヤケクソなのか、そんなことまで云い出す始末。 だが、それに応える者はもはやおらず。 『うひょ〜! うひょひょ!! 発射だぴょ〜ん!』 だから! あんた一度わたしの目の前に来い、秒殺してやるからッ!! ……そして。 手も足も出せずにいるわたしたちに、一際大きな震動と爆音が届く。 そのとたん、 「ぐっ……!?」 頭上から押さえつけられるような、とんでもない負荷が身体にかかる。 立っていることさえ出来ず、わたしたちは床に押し付けられた。 「何よ、これ……ッ!?」 ぎちぎち、骨がきしんでいる。 血が逆流している。 頭が沸騰しそうにかきまわされる。 「発射時のGだッ、ちくしょう、せめて座席に座らせとけってんだよ!!」 圧力に必死に抗しながら、シドが叫んだ。 Gと云われても、わたしにはちっとも見当がつかない。 が、少なくとも、この状況下において発生した圧力であることくらいは判る。 そして、これを和らげなければ、おそらく気絶――ですめばいいのだが――するだろうことも。 口の中で、息継ぎする間も惜しく呪文をつぶやいた。 「――レビテト!」 大地にわたしたちを縛りつける枷を、ほんの少しの間だけなくす魔法。 こんな機械だらけの場所ということもあり、効果のほどは見通せなかったが――果たして、身体にかかる圧力は、なんとか半減してくれた。 「ふぅ……っ」 額に汗を浮かべたまま、ティファが身を起こす。 クラウド、シドも、また然り。 それぞれ思い思いの体勢で、息を整えることしばらく。 レビテトの効果も消えたころには、すでに、Gとやらはわたしたちへ襲いかかることをやめていた。 あんなに激しかった震動は、今は小刻みに足元から伝わってくるばかり。 わたしたちは、真っ先に立ち上がったシドの後を追って、壁に据えつけられたパネルと画面の前に集っていた。 「ついに来たぜ……宇宙かよ……」 感慨深げにつぶやいて、シドは、手慣れた調子でパネルを操作する。 「さぁて、こいつの進路はどうなってんのかな……っと」 目の前の画面に、なにやら、光の点が出現した。 右側に浮かぶ赤い大きな光に向けて、三角形の光がこう進むのだと示している。 「やっぱり、メテオに向かうコースか」 しかも、ご丁寧にオートパイロット装置ロック済み。航路変更は無理だな。 シドのつぶやきは、すでにわたしたちも予想できたものだった。正直、専門用語はわたしには判らないけれど、メテオに向かっている、ということが把握できれば十分だ。 「……私たち、どうなるのかしら」 自身を抱いて、ティファがつぶやく。顔色が悪い。 先ほどの後遺症――というわけではないだろう。 なにしろ、このロケットがメテオに直進しているということは、まず間違いなく大破前提。 そうなると、乗っているわたしたちはどうなるか―― 「今から扉破壊して、外に出るのはできないの?」 「バカ云え」 問うてみたらば、速攻で否定が返ってきた。 「高度何万キロあると思ってんだ、落下中に摩擦熱で燃えつきらぁ」 「それに、空気がないからな。呼吸できずに死ぬほうが先かもしれない」 「……よく判らないけど、宇宙って妙なところね」 「……って、つくづく異世界の人なのね」 腕組みして首をかしげるわたしを見、ティファがしみじみとつぶやいた。 クラウドとシドが、同意するように頷いている。 「しかし、そうなると――」 無理矢理話を切り替えるため、わたしはそう口にした。 だが、どうしたものか、と続けるより先に、クラウドがうなだれる。 「……終わりか」 ――とたん。 すぱこーん! と、わたしの平手とシドの拳骨がクラウドの後頭部に見舞われる。 「何云ってんだ、若いもんが! 簡単にあきらめんじゃねえ!」 「あんたね、人をこっちに引き込んどいて“終わりか”ですますんじゃないわよ! 責任とりなさい責任!!」 そのセリフと同時に、鈍い音を立ててクラウドが床に撃沈した。 顔面から落ちたが、まあ、こいつのことだ。問題ないだろう。 「ク、クラウド……?」 ティファがかがんで腕を伸ばすが、クラウドは、それを辞退して身を起こす。 「だいたいなぁ」、 一回はたいて気がすんだのか、シドは、すたすたと少し離れた壁に歩いていった。 何かの操作を数手順。 ガコン、と、何かの音。 「オレ様は、メテオと心中するつもりなんか、はなっからないぞ」 こんなときのために、こいつには脱出ポッドが積んである。 「ロックは今解除した。メテオにぶつかる前に、さっさとおさらばしようぜ」 ほれ来い、とシドが手招くが、誰も動かない。 その解は、彼が首を傾げる前にティファが明らかにした。 「――ヒュージマテリアは、どうするの?」 「そうよ。そのために、ここまで来たんだものね」 腕を組み、わたしも彼女に追随する。 脱出の手段が見つかったのなら、当然、わたしたちは脱出する。 ならば、そもそもの目的であったヒュージマテリアも。そう考えるのは自然のこと。 だが、シドは云った。 科学にかけてみたい、と。 それは、神羅の計画の礎にあるもの。このロケットとヒュージマテリアをメテオにぶつける結果になるもの。 彼があくまでそれにこだわるのなら、ことは穏便にすまないかもしれない。 ――だが、 「……」 シドは、む、と口を尖らせると、 「マテリアがほしいんだったら、勝手になんとかしろい!」 と、そっぽを向いてしまった。 それから、胸の前で組んだ腕の片方を使い、傍の壁にある梯子を示す。 「マテリアなら、そっちのハシゴをのぼってった先にあるはずだぜ」 「……いいのか?」 緊張の面持ちでいたクラウドが、きょとんとした顔で問う。 表情だけなら、わたしたちも似たようなものだろう。 あれだけ科学にこだわっていて、科学で星を救うことに賭けて、――それなのに? 「判らねえ」 3人分の疑問符を受けて、シドは、小さくかぶりを振った。 「さっきはああ云ったけどよ」 ――オレ様は、コイツと宇宙まで行きたかった。 「それだけなのかもしれねえ」 …… しばしの沈黙。 照れ隠しかなんなのか、シドは、がしがしと乱暴に髪をかきむしり、 「だからだ! おまえたちも、おまえたちが考えてるように行動すりゃいいだろ!」 ――そう、結論付けるように云った。 |