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ある傭兵の独白 |
もともとは一人旅だった。 傭兵斡旋所に登録したのも、ある意味ほんの気まぐれ。 お呼びがあれば顔を見て、信が置けそうなら部隊に入ってやってもいいか、と思ってた。 だから。 「」 店の主人が呼びにきて、わたしを雇いたいっていう人と引き合わされたときには、何の冗談だと思ったのが本音。 ラムザ・ベオルブ。 イヴァリースでも有名どころの名門の坊ちゃんが、なんでまた一介の傭兵にお呼びをかけるんだろう、と。 あとで聞いてみたら、自分ちの兵隊さんは、兄たちへの気兼ねもあって動かしづらかったんだそう。 ・・・まあ、それよりも何の冗談だ、って感じなのは。 二つ返事で頷いて、結局ラムザの部隊に入っちゃった自分のほうかもしれない。 おかげで、イヴァリースを揺るがすでっかいでっかい事件に巻き込まれる羽目になったけど。 「あ、わたし、算術士技マスターしたから」 「え!? 、もう!?」 「ふふふふふふふふふ、儲け話で経験稼いだからね」 驚いた顔でこっちを見たラムザに、わたしは笑って答えた。 ずるずるして動きにくい算術士の服を脱ぎ、今は動きやすいもともとの旅装束。 滞在している宿の部屋だし、別に職業の格好していなくたって問題ない。 「うわ、すごいな」 感心したようにやってきたのはムスタディオ。 先日、お父さんを捕まえられていたところの手助けに入り、その後仲間になってくれた好青年である。 機工士である彼は、銃で相手の急所を的確に撃ち抜くコトによって、一時的に行動不能にさせる技を持っている。 集団戦闘では、即席に相手戦力を削げるため、実に便利な人である。 「えっへっへー。これで算術使い放題よ、魔力消費しないでいいからうちの軍の戦力大幅アップね♪」 「おお、そりゃ助かる。魔力切れって怖いよなあ」 さらに横から割って入ってきたのはラッド。 ラムザがガフガリオンの傭兵部隊に入ったときの、いわゆる同期という間柄。 もともと人懐こいのか、ラムザの部隊であったわたしたちとすぐに仲良くなった。 そのせいでか、ガフガリオンの部隊から離れたこちら側に、着いてきてくれているのだ。 そんな彼は、今黒魔法を修めようと一生懸命。 魔道士系に関しては、わたしに一日の長があるので、たまに一緒に勉強会もする。 ・・・まともな勉強会になった試しは、ないけれど。 「でも、算術ってたしかに魔力は使わないけど、しちめんどくさい計算が要るんじゃなかったっけ?」 「そこはそれ、行き当たりばったりで」 「魔法ってめんどくさいわね、やっぱり剣でどかどかやる方が楽だわ」 「……火遁玉とか水遁玉とか手裏剣とか投げてるほうが、射程予想しないといけなくてもっと大変そうだけど?」 「そうでもないわよ? ただ投げればいいんだもの」 あたし、士官学校の体力測定、遠投記録伝統入りしてるもんね。 そう明るく笑うのは、文字通りラムザが士官学校からの付き合いのスールヤ。 必然的に、士官学校生時代に雇われたわたしとも、付き合いは長い。 まだ他に何人かいるけれど、これがうちの――というかラムザの部隊である。 そういえば、先日拾ったチョコボのボコは、納屋でおとなしくしてくれてるだろうか。 みんながやれと云うので、指折り数えて、技能マスターした職業をあげてみた。 「白魔道士、黒魔道士、風水士に陰陽士、召喚士……は、あとひとつ召喚魔法が手がかりなしなんだよね」 「魔道士系がそれで、戦士系は?」 「んーと、ナイトにモンクに弓使い、あ、あとアイテム士の資格も持ってたっけ」 これからは戦士系の修練もしないと。 魔法唱えてる間にバッサリやられてるんじゃ、意味ないし。 そう云うわたしを見て、ラムザたちは一斉にため息をついた。 何なんだいったい。 「器用貧乏ってよく云うけど、はすでにその域越えてるよね」 感心したようなラムザに、わたしは呆れて指を突きつけた。 「……云っときますけどラムザ、貴方がわたしをほいほい儲け話に派遣してるおかげもあるんですけど」 「ああ、やっぱり儲け話って経験稼ぎやすいの?」 「まあ、イロイロ修行にはなるよね」 「だってが行くのが、成功率いちばん高いし……どうせなら、きっちり報酬も財宝もほしいしさ」 にこにこ笑って、ラムザは云う。 一応彼が部隊のリーダーな以上、こう云われてはまず逆らえない。 本気でいやなら本気で反対するけど、わたし自身儲け話に派遣されるのは結構好きだ。 そこらの草原や湿地で、魔物相手に戦闘重ねるよりは、バラエティに富んでるから。 ……富みすぎてるときも、たまにあるが。 つい先日請け負った、カジノ船ブラックジャックをふと思い出す。ポケットマネーのいい稼ぎ場所だった。 「なら機工士だってやれそうだな。今度挑戦してみないか?」 「うわ、それ難しいって。銃でどうしてあそこまで綺麗に急所撃てるのか、謎なんだから」 「勘だよ、勘」 あっけらかんと云うムスタディオを、全員が注目する。 数秒後。 『野生の勘かッ!?』 「違うわーーーーーー!!」 とかいう叫びが宿の一室から響いて、女将に怒られることになったのは、また別の話ということにしておこう。 後になって思い返せば、随分と重いものを背負った旅だった。 異端者として追われるコトになったとき、ラムザがわたしに謝ったのを覚えている。 きっと、全員にそうして気持ちを訊いていたんじゃないかな。 「――」 「何?」 「僕たちは異端者になって、何処に行くかどうなるかも判らない。だけど、この部隊を抜ければ、少なくとも追われることはないけど・・・」 何を云っているのか、このお坊ちゃんは。 そんなに、泣き出しそうな顔をして。 「ないけど?」 言葉じりをとらえて、わざと意地悪そうな顔して云ってやった。 ラムザは口を開いては閉じて、何やら云いよどむ素振りをして。 それから視線を合わせてきたから、わたしは、とどめとばかりににっこり笑ってやった。 「云わないと判らないけど」 だから云ってくれないかな、リーダーさん。 目を丸くして、きょとんとなったラムザは、年に似合わない幼さで。 だけど、すぐに。 真っ直ぐな、強い視線を。 わたしの大好きな、目の前を見据える視線を見せてくれた。 「だけど、一緒に来てほしい」 戦力だからじゃなくて、これまでずっと一緒にきてくれた仲間だから。 これからも、一緒に来てほしい。 ただの我侭かもしれないのは判っているけど、 「それでも、。一緒に――」 ラムザのことばが最後までつむがれなかったのは、ひとえに、途中でわたしが彼の頭を軽くなでたせいである。 余談だが、恥ずかしかったんだろう、顔を真っ赤にしたラムザはけっこうかわいかった。 答えは、当然 『YES』 雇ったからとか、雇われたからとか。 そんな関係もたしかにあったかもしれないけれど。 だけど、わたしは、わたしの意志で、彼らに最後まで付き合おうと思ったんだ。 ――大好きだったよ。 大好きだよ。 剣士の刻む物語に付き合えたことを、わたしたちは誇りに思う。 最後に歩き出すとき、ラムザにそう云ったら、やっぱり彼は赤くなった。 これは、物語。 デュライ白書が世に出るまで、けして語られることのなかった、ひとりの剣士の物語の、 ・・・はじまり、である。 そして、これが物語のはじまり。 |
で、開き直ってファイナルファンタジータクティクス夢。 |