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君の生まれた日 |
今日も今日とて、坊ちゃんは元気だ。 「。ねえ、今日何の日か覚えてる?」 ひとふさ跳ねてる触覚じみた髪の毛を、歩くたびにぴこぴこ揺らし。 宿の部屋から降りてきたラムザは、開口一番そう云った。 わたしはというと、ちょうどウエイトレスさんがオーダーを運んできてくれたので、飲物に口をつけつつ一言答えた。 「さあ? 何の日だっけ?」 ずがーん。 岩で出来たそんな文字が、ラムザの脳天にクリティカルヒットするのが見えた。 やけにスローモーな動きで床に突っ伏したラムザの下に、涙の水溜りが広がっていく。 よくもまぁ、そんな絵物語みたいな真似が出来るものだ。 ……あ、HP残り1。(カーソルを当ててみたらしい) 「まったく。誕生日のお祝いが欲しいなら欲しいと、素直に云いなさいよ」 「えへへ。だってが覚えてるかどうか訊いてみたかったんだ」 『誕生日のお祝い』と称して購入したルーンソードを腰に佩き、ラムザは至極ご機嫌だった。 予定もしていなかった突発的な出費を強いられた会計係ことわたしとは、正反対。 これでしばらく、路銀調達のために儲け話に精を出さなけりゃならないってことを、こいつは判っているんだろうか。 「――覚えてなかったわね。見事に」 ふい、とそっぽを向いて云うと、隣の坊ちゃんのボルテージがとたんに下がる気配。 なんって判りやすい。 「毎年云ってるのに、ちっとも覚えてくれないんだもんなぁ」 あまつさえ、じめじめとそんなことを云ってくる。 さっきまでのあの浮かれっぷりはどこへ云ったのよ。 「あのね。いっぱしの傭兵部隊が、何が哀しくて、いちいちメンバーの誕生日祝いをしなきゃいけないのよ」 こめかみを指で押さえて、わたしは云った。 そうなのだ。 この坊ちゃん、見た目に反さず、こういったイベントが好きなのである。 おかげで、やれ加入祝いだやれ誕生日祝いだやれ討伐祝いだ…… 何か事件が起こって終わるたびに、うちの部隊は宿を占領して大騒ぎ。 それまでの張り詰めた神経を切り替えて一新するにはちょうどいいのだが、こいつが果たしてそこまで考えているのだろうか。 まあ、それもここのところの切羽詰った展開で、さすがにそんなことも云いださなくなったと思っていたら、これだ。 「だから、メンバー全員はやめてるじゃないか」 「自分のはちゃっかりやるわけね?」 「え? もやりたい?」 「絶対、イヤ。」 やるとかぬかしたら、魔力めいっぱい引き上げてホーリーかます。 「本気でやりかねないから怖いよね」 「勿論本気よ。やるとなったら手抜きしないわ」 「……傭兵の鑑だね、」 「本業だから」 そんな殺伐とした会話ながら、話しているうちに、少しずつラムザのご機嫌も上昇していく。 他愛のない会話で――と思うかもしれないが、こんな会話だからこそ、わたしたちは心を和ませる。 戦場では、一言一言のやりとりが重要。時には相手の仕草や呼気さえも。 見逃すわけにも聞き逃すわけにもいかない、そんな張り詰めた日々を外れた、こういう時間がわたしは好きだった。 傭兵だからって、別に四六時中戦場にいるのが好みというわけではない。断じてない。 「だってさ」 わたしがそんなことを考えてるとはつゆ知らず、照れくさそうにラムザは云った。 「やっぱり、に祝ってほしかったんだ」 ・・・・・・ だからさ。 なんでこの坊ちゃんはこう、恥ずかしげもなくそーいうことが云えるかな。 思わず弛みそうになる頬を叱咤して、わたしはルーンソードを指した。 「祝ってあげたじゃない。ルーンソード」 奮発したんだから、丁重に扱いなさいよ。 「うん、これはこれで嬉しいんだけど」 ぴたっとラムザは立ち止まる。 つられてわたしも立ち止まる。 明るい茶色の双眸は、期待にきらきらと輝いてわたしを見下ろしている。 ああ、なんて判りやすすぎ。 ため息ひとつ。 だけど、絶対苦笑をつくりきれてない。 別にいいかと思って、わたしはかかとを持ち上げた。 猫の毛みたいにやわらかい金の髪を、数度なでてやる。 気持ちよさそうに目を細めるラムザは、本当に犬かそれとも猫か。 「――誕生日おめでとう、ラムザ」 「ありがとう」 お人好しで他人を疑えなくて自分ばっかり苦労して、周りもそれに巻き込んで。 いつまで経ってもわたしたちから、世間知らずとからかわれて。 だけど本音を云ってしまえば。 あなたがこの世界、今の時代に生まれてくれて、本当に良かったと思ってるのよ。 |
......なんだかんだ云いつつ、バカップル....? いや、でも、ベタベタっていうのとは違いますよね。 なんかこう...飼い主と犬?(おい |