-げんえいりょだんのだんちょうさん-


 彼らは幻影旅団です
 彼は彼らを束ねる頭の役目です

 だから、彼らは彼を団長と呼びます
 だから、彼女もそれに倣おうと思いました


「団長」
「……」

「団長」
「……」

「……団長?」
「…………」

「だー、んー、ちょー、うー!」
「…………」

「……あの。なにか、怒ってますか?」
「いや、別に」

「じゃあ、ええと、団長。出かけるのは明日から――」
「……」

「やっぱり怒ってませんか……?」
「怒ってない。ただ」
「……ただ?」
「自分で考えてみろよ」

「……」
「怒った?」

「怒ってないです」
「嘘だ。眉吊り上がってるぞ」

「考えてもわかんないからですっ」
「そうかな」
「はい。判らないから教えてほしいです。悪いことしたなら謝ります」
「悪いことはしてない」
「……ほんとですか?」
「ほんと」

「……わたし、ペットじゃないです」
「髪ぐしゃぐしゃになったな」
「だって、団長がひっかきまわしましたから」
「……」

「……団長?」
「……」

「…………」
「……」

「………………」
「……泣くなよ」
「な、泣いてません」
「あくび?」
「そうです!」
「量が多い」
「涙腺が元気なんです!」
「……それは結構なことで」

「それで、どうして怒ってるんですか」
「だから、怒ってはいないって」

「じゃあどうして、お返事してくれないんですか」
「うーん。判らない?」
「判らないです」
「……そうか」
「はい」
「困ったな」
「困ってるの、わたしもです」
「オレも困ってる」

「だから、教えてください。お願いします」
「出来れば気がついてほしかったんだけどな」
「……ごめんなさい」
「ま、しょうがないか。貸し追加だな」


 団長さんは、幻影旅団の団長さんです
 団員をまとめる、頭の役目です
 彼は団員のみんなから、団長と呼ばれています


「……うー。返せてないのに増えるばっかり……」
「精進」
「します。だから、その」
「ああ、ちゃんと教えるから」

「……、さっきより、こっちのほうがやさしいです」
「手加減してるから」
「むう」
「しないと壊れるしな」
「……どうせまだまだひよっこです……」
「早く隣に立てるようになってくれ」
「それは一生無理だと思います。クロロさん強すぎです」
「ああ、それ」

「え?」
「それが正解」


 ぽろりとこぼれた呼び方は、


「クロロさん? あの、何がですか?」
「うん」


 団長が団長なのだと聞いた昨日のその直前まで、彼女が呼んでたものでした


「え? え? えっと、何が、その、クロ――じゃない」、
「オレの名前は」、
「だ」、
「なんでしょう?」
「んちょ――」
「3、2」、

「え、あ、わ、クロロさん!」
「1。セーフ」


 クロロ=ルシルフル
 それが、団長さんのお名前です


「……ええと。団長って呼んじゃだめだったんですか?」
「団員じゃないから」
「……ご、ごめんなさい」
「なんで」
「ええと、せんべつ、じゃなくて。せんえつ、でした」
「だから怒ってるんじゃないんだって」
「でも団員でもないのにお世話かけてて借りばっかりで」
「オレが拾ったんだから世話するのは当たり前だろう。そうじゃなくて」

「……そうじゃ、なくて?」
「……ご主人様、なら返事してもいいって話」


「……」
「……」


「……クロロさん」
「うん」
「メイドさんの修行に出てこいってことですか?」
「いや。というか、裏を読んでくれないかな」

「裏?」
「後ろにまわりこむな」


 そして延々とつづくやりとりを、
「……たるい!」
「ウザい」
「長い」
「トロい」
 実際の第一発見者含めた面々が、思いっきり弛緩した仕草で眺め、それぞれの感想をもらしていたりするのでした


「団長、素直に云えばいいのに。ねえパク」
「子供相手に真顔で話せる性格じゃないわよ」

 うちの団長は、そんな奴
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