- 穏やかな昼下がり。 午睡にちょうどいい気温も手伝ってか、住人の半数が衛宮邸の居間や縁側におりました。 その一角、何気に一番広く一番日当たりのいい場所をキープしてくつろいでいる金の髪の青年に、数人が呼びかけます。 「おい、ギルガメッシュ」 「……」 「ちょっと、金ぴか」 「……」 「聞いてんのかよ、成金」 「……」 「ギルガメッシュ、呼んでるんだから返事くらいしてくれ」 「フン」 『“フン”!?』 「雑種ごときが王へ直に話しかけるとは不遜である。よって応じる道理はない」 『はあ!?』 すたすたと歩き去るギルガメッシュ様。 見送る一行の目は、点々です。 そこに、衛宮さんちのさんがやってきました。 「あれ、どうしたのみんな?」 「どうしたもこうしたも……」 事情を知らないさんに、士郎くんが説明してあげました。 聞いているうちに、さんもだんだん苦笑い。 「困ったもんだねえ」 「もうちょっと妥協してくれりゃあな」 衛宮さんちのきょうだいは、寛容なのか大物なのか、はたまたただの紙一重かお人よしか。 褒めてませんがとにかくそんな性格なので、ギルガメッシュ様の物云いにもあまり頓着しないのですが、他のひとたちはそうはいきません。 「っあーもう! 何よ何様よあの男!」 あかいあくまこと、凛様が吼えています。 「テメエがどこんちに世話になってると思ってんだかな」 ムス、と腕組みして、彼の去ったほうを睨みつけてるのはランサーくんです。 はむはむ。こくり。 居間でお煎餅をかじっていたセイバーさんも、今のやりとりを見ていたので、ちょっぴりご機嫌が悪そうです。 もっとも、食事中の彼女に声をかけなかったギルがメッシュ様の判断は懸命でありましたでしょう。なにしろ、下手にちょっかいかけるとエクスカリバーが襲ってきます。 数度やられた英雄王様は、ちゃんとそのことを学習しているのです。さすがですえらいですすばらしいです。学習機能はちゃんとついていたのです。 「だいたい、雑種雑種ってひとを何だと思って」 ブツブツつぶやく凛様の後ろを見て、さんは「あ」と云いました。 「王様っ! お出かけ!?」 「ん? ――ああ、少々散策にな」 『…………』 凛様の向こうには、衛宮邸の門があります。 さんは、そこへ歩いていた王様を見つけて声をかけたのでした。 「晩ご飯までには帰ってね! この間みたいに遅くなって冷めた晩ご飯見てエアかますのはダメだからね!」 しょっちゅう謎の光が炸裂する衛宮邸は、ご近所からミステリースポット扱いされています。 ゴミを捨てに行くときなど、たまに漏れ聞こえるご近所の奥様の井戸端会議を聞いてしまう衛宮さんちのきょうだいは、ちょっぴり肩身が狭い思いをしているのでした。 「判った判った」 ギルガメッシュ様は煩わしげに手を振って応じたあと、ふと、さんを手招きました。 「。そんなに心配なら、おまえが我を監督していればよかろう?」 『…………!?』 さんと士郎くんを除く皆さんは、開いた口がふさがりません。 雑種に返事はしないとぬかしたその口で、ギルガメッシュ様はさんに監督権まであげようとしてるのですから。 天上天下唯我独尊、他人に手綱を譲ってたまるか、我の前に立つ奴はエヌマ・エリシュでみじん斬り、のギルガメッシュ様がです。 さんは、ちょっと困ったように士郎くんを見上げました。 これ以上ミステリースポットにされてたまるかと、半ばパブロフのわんちゃん的に声をかけたのですが、みんなが憤っていたのは今しがた。 それに、さんも、ギルガメッシュ様仰るところの雑種です。まさかここで返答があるとは思ってもいなかったのが正直なところだったのですから。 ……まあ、お菓子を貰ったり服を寄越されたりはしてますが。 そんな姉妹に、士郎くんはとりあえず笑いかけました。 「いいよ。今日は別にやることもないし、行ってき」 「は今日、私と一緒に勉強するのよねー?」 ぬっ、と、衛宮さんちのきょうだいの間に頭を突き出して、凛様が云いました。 ちょっとつり目の瞳は今、やんちゃ盛りの子猫の前で、届きそうで届かない位置にねこじゃらしを振って楽しんでいるかのように細められています。 ああ、凛様は何をたくらんでいるのでしょう。 「え?」 唐突なお誘いに、さんの目はまん丸になりました。 が、そこに凛様はたたみかけてきます。 「進級前の課題、一緒にやろうって云ってたじゃない? 思い立ったが吉日、ほら今からやりましょ」 「え、あ、う、うん?」 ぐいぐいぐい。 凛様に背を押され、さんは家のなかに押し込まれてしまいました。 「…………」 それを、ギルガメッシュ様は眉根を寄せて眺めてらっしゃいましたが。 「フン」 と一度つぶやかれますと、そのまま身を翻してしまわれました。 門を抜けるその仕草が心なし乱暴だった理由は、おそらく本人と、 「ふっふっふ、やっぱりね」 ――間をおかず戻ってきた、あかいあくましか知らぬことでしょう。 「遠坂……何がしたいんだ、おまえ」 またしても衛宮邸に謎の発光現象が起きる未来を垣間見た士郎くんが、疲れた顔で問うています。 ですが、それくらい凛様にはなんてことありません。 ぴ、と指を一本立てると、反対側の腕でがっしり抱え込んださんを目で示しました。 「金ぴかの鼻を明かすいい方法よ」 「ノッた」 すかさずランサーくんが云いました。 彼も、なんだかんだとこういうことが大好きです。それに相手が相手です。気に入らないという点では、本日遠坂邸でお留守番中の家政夫にも等しい金ぴかをやりこめられるというのですから、ノらないはずがありません。 が、残るひとたち、 「……何をやろうと、最終的にエアかまされるから嫌だ」 やり返すことより我が家が大事な士郎くんと、 「や、やめようよ。王様には今度注意しとくから〜」 実は多大な恩義があったりするさんと、 「…………」 はむはむこくこく。 そもそも、はなっから話を聞いてないセイバーさん。 多数決なら穏健派の勝利です。 けれどこの場合、過激派に軍配が上がるのは目に見えていました。 「だいたい、にも責任があるのよ!」 ビシィ! 凛様に指を突きつけられたさんは「ひえっ!?」と、のけぞろうとしましたが、がっちり抑え込まれているのでそれは出来ません。 「あんたが王様王様って懐くから、あいつが図に乗ってるんじゃない! 仮にも(長編ネタばれのため自主規制)なんだから、ちょっとは躾ようとか思わないわけ!?」 「お……王様を躾ろ!?」 “マ○……恐ろしい子!” そんな表情になって、さんは驚愕を表現してみました。 「む、無理だよそんなの! だって王様だよ!? だって(以下同文のため自主規制)だし、出来ないよそんなこと〜!」 「はいはい、判ってるわよ。まあ、がそんなだから、今回いい餌になるんだけどね」 「……遠坂。を餌にして何する気だよ」 「ああ、別にたいしたことしてもらうわけじゃないわ。――ていうかこの場合、全員が餌かな?」 そのなかでもとりわけ覿面なのが、とセイバーが一緒にノることだってだけで。 『?』 にんまり微笑むあかいあくまのお言葉に、結局、全員が身を乗り出してしまっていたのでした。 「リン。このお土産のお煎餅はとても美味しかった。出来れば店を教えてほしい」 「何も聞いてなかったのねあんた」 ……一部を除く。 -+-+-+-+-+-+-+- さて、時は過ぎて日も暮れて。 散策中ふと立ち寄った庶民の賭博場(パチンコ屋)で黄金律を炸裂させたギルガメッシュ様は、でっかい紙袋片手に衛宮邸へご帰宅なさいました。 「…………ム?」 門をくぐったギルガメッシュ様は、怪訝そうに首をかしげました。 いつもなら窓から明るい光が零れている衛宮邸のはずですのに、何故か今夜に限っては真っ暗だからです。 それに静かです。 灯りと一緒にこぼれているはずの、愛しいセイバーや、おまけの雑種たちの賑やかな声。それがちっとも聞こえません。 それどころか、人っ子ひとり、いないみたいです。 「むぅ」 勢いよく引き戸を開けてはみたものの、廊下も暗く、静まり返っておりました。 足元に目を向けて、ギルガメッシュ様は眉をしかめます。 普段なら幾つもあるはずの住人や来客の靴が、一足もありませんでした。家主である士郎くんやさんがつっかけるサンダルはありますが、常用しているスニーカー等がありません。 「……雑種どもめ、どこへ行ったのだ」 ギルガメッシュ様が廊下を歩くたびに、担いだ紙袋がガサガサ音をたてます。 静まり返った家のなかに、それは大きく響きました。 「…………」 なんとなく、声を出すのも憚られます。 思えばこれまで、ギルガメッシュ様は無人の衛宮邸に帰ってきたことがありませんでした。 「――――」 がら。 居間もやっぱり無人でした。 ただ、 「ん?」 電気の消えた室内、卓袱台の上に。こんもりと、何かが乗っています。 ギルガメッシュ様は手を伸ばして、電灯のスイッチを入れました。自分でやるのは初めてです。 灯りの下でよく見ると、それは料理でした。 虫が寄らないようにでしょう、きちんと覆いもしてあります。 そいて、その覆いの上には一枚のメモがありました。 『王様へ』 「……か」 ギルガメッシュ様をこんなふうに呼ぶのは、あの少女しかいません。 あまり彼女の字を見たことがなくても、この書き出しでそれと判って、ギルガメッシュ様は小さな息をつきました。 手にしたメモに、目を通します。 「…………」 『おかえりなさい。えーと、帰ったら誰もいないと思いますけど驚かないでくださいね。これは 「…………」 何故か油性ペンで塗りつぶされた箇所がありました。 しかも何を争ったのか、その部分に妙に皺が寄っています。 「……何をしておるのだ、彼奴らは」 メモにはつづきがあります。 ですが、それを綴る字はがらりと変わっておりました。 『ごめん、俺は またしても油性ペンの刑が施されていました。 「………………」 最後の一行は、油性ペンがありませんでした。 『というわけで、後よろしく』 「何がよろしくだ!?」 ギルガメッシュ様は吼えました。 ちっとも訳が判りません。 だー、たー、あー、ぁー、と、叫んだ声が反響して物悲しく消えていったころ、ギルガメッシュ様は、どさりとその場に腰をおろしました。 ちょっぴり涙目です。 「…………」 灯りがついているのはこの部屋だけ。一歩出れば、きっと真っ暗です。 英雄王たるもの闇を怖れるわけがないのですが、そんなギルガメッシュ様の心を、一陣の風が吹き抜けていきました。 「……フン。我を置いて姿を消すとは、無礼者どもめ」 つぶやく声も元気がありません。 ギルガメッシュ様はちらりと卓袱台の上の食事を見ましたが、手を伸ばそうとはしませんでした。 この間エアをかました後、冷えた食事をあっためるための道具――電子レンジの使い方を教えてもらったのですが、今は、そもそも食欲がわきません。 「…………」 むー、と口元を歪めて、ギルガメッシュ様はその場に座り込んだまま動きません。 かたん。 「セイバーか!?」 背後で鳴った音に、ギルガメッシュ様は勢いつけて振り返りました。 が、 「ちゅう。」 「――――っく、ネズミか……!」 剣幕に怖れをなしたのでしょう。逃げてゆく、茶色の小さな生き物を見送りながら、ギルガメッシュ様は拳を握りしめました。 それから、ばたりとそのまま突っ伏してしまいました。 何をネズミ相手に真面目になっているのかと、自分でバカバカしくなってしまったからです。 「…………」 畳の目に沿って、指を動かしてみました。 いつもきれいに掃除されていますので、埃もつきません。 「……」 じんわり。 熱くなってきた目じりを、乱暴に腕に押し付けます。 英雄王は強いのです。 こんなことで心臓がじんじんしてしまうなんてこと、あってはいけないのです。 ――――でも。 「…………」 ――――でも。 「〜〜〜〜〜ッ」 やっぱり、さ―――――――― (ねえねえねえ、もうだめだよ見てられないよ出てっていいでしょ!?) 「……?」 ぴくり。 床下から、それは聞こえました。 (……俺もちょっと胸が痛い。なあ、もういいだろ?) がばり。 ギルガメッシュ様は、畳に耳を押し付けました。 (リン……いえまあ、彼に一泡吹かせたい気持ちはよく判りますが、というか、私も常々エクスカリバーを繰り出す衝動と戦っているのですが、これはさすがに……) (何云ってるの!? このまま行けば一生のうちで見れるかどうか判らないあの金ぴかの■■顔が見れるかもしれないのよ!?) (いや、嬢ちゃん。主旨が変わってるての。元々はこう、無視とか話す相手がいないっつーのを味あわせようってんだったろ……ていうかなんであいつは、こう予想外に■■■■やなんだ) ……何を。 ……今ごろ。 ……彼らは。 ……こないだテレビドラマで観た越後屋と悪代官チックな会話などかましていやがるのでしょうか……! 「――――――――」 ギルガメッシュ様は。無言で縁側に下りました。 「……天地乖離す」 振り上げた右腕に、風が唸ります。 何もなかった空間に出現したそれを、ギルガメッシュ様ははっしと握りしめました。 縁側の下の奥、場所でいえば居間の下あたりの闇から、ぎょっとする気配が複数感じられました。 瑣末事は気に留めず、ギルガメッシュ様はエアを振りかぶります。 出力は最大にして最強、制御など一切考えません。 それ以前に、なんか様々な感情が渦巻いて、まとまりません。 目の奥は熱いし腹は煮え繰り返ってるし、胸の奥はじんじんと痛いし。 だから全力です。 この一閃にすべてを賭けます。 縁側下の越後屋と悪代官どもには、これでもまだ手ぬるいほうなのです――――! 「開闢のほ―――――――――」 「ごめんなさ―――いッ!!」 がば。 がし。 ごん。 「な」 「ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! まさかあそこまでクリティカルヒットくらっちゃうなんて思わなかったの! もう二度とやんないからごめんなさいいつもの王様に戻って――――っ!!」 うわああぁぁぁん、と。 まるで誰かさんの代わりみたいに泣きじゃくりながら飛び出してきたのはさんでした。 飛びついたときの勢いが余って押し倒してギルガメッシュ様の後頭部を地面にキッスさせてしまいましたが、どうも気づいていないみたいです。 ちょっぴり頭痛が痛いギルガメッシュ様でしたが、眼前のさんの取り乱しっぷりに意識をとられておりましたので、さしたるものでもありませんでした。実際には、でっかいたんこぶが鎮座ましていたのですが。 「……ごめんなさい〜……」 ひっくひっくとしゃくりあげるさんの横を、茶色いネズミが通り過ぎていきました。 そのネズミさんに、凛様が指を突きつけて呪文を唱えます。すると、ネズミは色褪せた宝石になりました。 「あー、その。なんていうか。やりすぎた。すまん」 「まさかあそこまでダメージくらうとは思わなかったわ」 士郎くんとランサーくんが、実に複雑な顔して謝罪します。 「……」 セイバーさんはどうも、ギルガメッシュ様に対してだけは頭を下げることに抵抗があるみたいです。ですが、ほんの僅かに首を上下させておりました。 「んー……でもこれで、ちょっとは懲りた?」 冷や汗一筋流しつつ、凛様が云います。 手では落ちつかなさげに色褪せた宝石をもてあそんでいましたが、それを止めてギルガメッシュ様を見下ろします。 「無視するのって、要するに相手がいないと出来ないのよ。そんな相手もいないことに比べたら、あんた曰くの雑種の呼びかけに応じるくらい、遥かに妥協しやすいことじゃない?」 「…………」 本当は。 凛様は、心の中でつぶやきます。 ――本当は、一晩どっかで遊び倒してきたふりして、帰るつもりだったんだけど。 だからこその“後はよろしく”メモだったりしたのでした。 さんが飛び出したおかげでその目論見はぱあになってしまいましたが、もし実行していたら、姿を見せた瞬間にタメなしでエア発動の憂き目に遭ったかもしれません。 まあ、そのときはさんとセイバーを盾にする算段を立てておりましたが。――やっぱり、凛様はあかいあくまです。 「……」 ギルガメッシュ様は、む、と眉を寄せて考え込んでおりましたが。 とりあえず、膝の上でぐすぐす云ってるさんを引き寄せて抱っこしてみました。 セイバーにしようかとちょっぴり考えましたが、そんなことしたらそれこそタメなしエクスカリバーです。投影カリバーンもついてきそうです。 それにどちらかというと、ギルガメッシュ様は、抱っこするならさんのほうが慣れています。位置も近かったので、自然とその手はさんを引き寄せておりました。 ……あったかいです。 今自分がいるのは地面の上で、周りは夜の闇ですのに。 どうして、さっき、明々と電灯のついてた居間にいたときよりも、心がぽかぽかあったかいのでしょう。 交わったわけでもありませんのに、どうして、ただこのままでいたいようなささやかな満足感があるのでしょう。 「…………」 ギルガメッシュ様は、ため息をつきました。 腕のなかのさんは、まだぐずってます。だったらやらなければいいのにと思い、そんなさんやセイバーを引きずり込んだあかいあくまにムッとしましたが、しかし、と考え直します。 だって、さんは本当にやっちゃいけないと思ったことは文字通り自分の命賭けるくらいの勢いで止めにかかる子なのですから。 だから、こうしてさんがあかいあくまの計略にのってしまったということは。 「……我にも非があったということか」 凛様や士郎くん、ランサーくんのいる前で認めるのは癪でしたが、このままだとさんが泣き止みません。泣いてる顔もそそるなとかちょっぴり思いましたが、オフレコでお願いします。 「……王様」 「判った判った」 ぐしゃぐしゃの顔でこちらを見上げるさんの頭をぽんと撫でて、ギルガメッシュ様は云いました。 「――彼奴らはエミヤの家族。なれば、我ももう少しは寛大に応ずべきであった」 もっともセイバーは我が妃。寛容すぎるほど寛容に接しているが。 「…………我様主義め」 ぽつりとランサーくんがつぶやきました。 「…………根本的にダメですね」 そもそもどこが寛容ですか。ていうか妃ではありませんと云うのに。 頭抱えてセイバーさんがぼやきました。 「――――いいのよ。ナノミクロンだろうと一歩は一歩、前進は前進だもの……!」 怒りを誤魔化す為に凛様が唸りました。 「まあ、ギルガメッシュらしいよな」 とりあえず放してくれんかなと思いつつ、士郎くんは云いました。 そして、 「ごめんなさい、王様」 「うむ。許す」 謝るさんへ鷹揚に応えるギルガメッシュ様を見て、みなさんはがっくりとうなだれてしまいました。 「! だからあんたが甘やかすから!!」 がーっ、と、凛様が怒鳴ります。 びくりと震えたさんを、ギルガメッシュ様は軽々と担いで立ち上がりました。 ちらりと凛様を一瞥して一言、 「フン、騒々しいわ赤い女。我はこれから寝る、ジャマはするな」 「待てやコラ」 歩き出そうとしたギルガメッシュ様の肩を、ランサーくんが掴みました。 その手には血管が浮いています。かなり力がこもっているようです。ぎりぎりと音さえ聞こえます。そして素晴らしい笑顔です。目が笑っていないのに口元はつりあがっています。まさに獣の形相です。 「寝るんなら他人のマスター担いでいく必要ねえだろうが。置いていけ」 「フッ。何、色どおりの青臭いことをぬかしているのだ。寝るといえば意味はひとつと決まっておろう」 「ざけんなオラ。心臓ブチ抜くぞ」 「我の宝物庫にはその槍の原型があることを忘れたか?」 びりびりびり。 ぴりぴりぴりー。 炸裂する殺気のぶつかり合いに、笛の音が割って入ります。 「はいはいはい、イエローカードイエローカード」 体育でよく見かける笛をくわえた士郎くんが、慣れた手つきで黄色いカードをふたりの額にぺたりぺたりと貼りました。 「む」 「う」 これは、最近出来た衛宮家の決まりごとです。 一日にイエローカード三枚、若しくはレッドカード一枚をもらったひとは、翌日の昼ご飯が抜きになります。 朝でなくて昼なあたり、まだやさしい罰ではありますが、どこかの騎士王様にはちょっと耐えられない罰です。ですからセイバーさんは、エクスカリバーを放つときには必ず周囲に被害が出ないよう細心の注意をするようになりましたので、なんと出力を調整することが出来るようになったのです。先日など出力を極限まで絞り、半径5センチの円内に繰り出す技を編み出していました。名付けて“ピンポイントレーザーエクスカリバー”です。そのまんまです。これも怪我の功名です。ただひとつ難があるとするなら、努力の方向が間違ってるということでしょうか。 固まったギルガメッシュ様とランサーくんを尻目に、士郎くんは、ひょい、とさんを奪って抱えなおします。 「んじゃ寝るか」 「うん」 同じ“寝る”でありながら、意味合いは全然違います。 さんを抱えたまま、士郎くんは歩き出しました。その後ろにセイバー、横に凛様がつづきます。 額に黄色い紙を貼り付けたふたりも、一拍遅れてあわててそれを追いかけました。 「あ・と」 さんを縁側におろした士郎くんが、追いついてきたギルガメッシュさんを振り返りました。 「飯まだだろ?」 「む? ――うむ」 「じゃあテーブルの上にあるから……って、そうだな。、あっためてやってくれ」 居間で突っ伏してたギルがメッシュ様を思い出した士郎くんは、一瞬考えたあと、そうさんに云いました。 「うむ。の給仕ならば我も構わん」 「だからその王様発言をどうにかしろって。あとあからさまな個人贔屓」 「む――まだ我に条件を出すか」 「え、でも士郎。いま普通に話すようになったんだから立派に進歩してるよ」 ほかはゆっくり行けばいいじゃない。 「それに、正直、セイバーみたいになっちゃった王様って想像出来ないし」 『………………』 一瞬の、沈黙のあと。 約二名を除いて、皆さん、いっせいに頷いたのでした。 「心外です。こんな男と比べられるとは」 ぷんぷん憤るセイバーさんを宥めるために、就寝時間が延びてしまったのは、ご愛嬌。そして別のお話。 収拾がつかなくなってきたので、これにておしまい。 衛宮さんちのきょうだいと、その家族たちは今日も元気です。 |