「……ねえ、バルレル」
「……なんだ」
「あたしたち……夢見てるのかな?」
――どこまでも広がる、赤茶けた大地。
髪をかきあげる乾いた風と、時折ぶつかる舞い上げられた砂。
そこに、ふたりは立っていた。
眼下に広がるは、巨大なクレーター。
砕け、あるいはそのままで、色とりどりと散った石――サモナイト石。
こときれ、あるいは今にも息絶える寸前で、あちこちに散らばった――人間たち。
その中央、描かれた、摩訶不思議な模様。
「どう見ても、こりゃ、アレだろ……魔王召喚の、儀式直後って感じじゃねぇか」
「じゃあ、また、誰かがここを使って――?」
「寝ぼけんなバカ」
一縷の望みにすがったことばは、あっさりとかき消される。
「見ただろ。儀式してたやつらを。光を。喚び出されたあいつらを」
穴の縁から隠れるように覗き見た、その儀式の現場。
魔方陣を囲むように配置された、大勢の、黒装束の召喚師。
中央に立っていた、4人の少年少女。
その間近にいた、壮年の男。
――ほとばしった光。
目を灼くほどの閃光。
そして。
――すべてが破壊されたその場に、忽然と現れた、4人の少年少女――
「……綾姉ちゃん……だったね……」
その名を叫び、駆け寄ろうとしたを、必死に止めたのはバルレルだった。
今顔を合わせるなと、それだけを強く告げて。
ふたりがそうしている間に、綾を含めた4人は、穴の底の惨状に驚いて、逃げていってしまっていた。
そして。
傷を負いながらも無事だった壮年の男の指示で、こちらは無傷で残った、魔方陣の中央にいた4人が彼らを追っていった。
そして。
男も姿を消し、ふたりはやっと、通常のボリュームで会話できる場を得たのだった。
……そのときまで、バルレルは、全力での口をおさえこんでいたのだが。
だが、ようやく解放されたは、先ほどの数言を発したあとは何も云わず、ただ土の上に座り込んだ。
赤茶けた大地。吹き抜ける乾いた風。どこまでも広がる蒼穹。
そんな光景に既視感を感じるその事実が、今目の前にあるそれは夢ではないのだと、彼らに強く突きつける。
予想はつく。
以前聞いた話に出てくる、すべての黒幕だかに酷似した、壮年の男。
その話を聞いたときには一緒に笑い合っていた、魔方陣の中央にいた4人。
すっかりリィンバウムに馴染んでいたはずの、喚び出された4人の服装。あれはどう見ても、かの、名も無き世界のもの。
……予想はつく。ついている。
ありえないわけじゃない。
かつて、たしかに自分たちは、魔力の暴走によって数日の時、そして場所を越えたことがある。
そう。
ありえないわけじゃない。
けど。
だけど。
「なんでこう、計ったよーなことになるんだよ……?」
さしものバルレルも脱力し、土の上にへたりこんだとて、何の不思議があるだろうか。
ふたりが黙ってしまえば、そこは無音の世界になる。
時折吹き抜ける風と、どこかから聞こえる動物だかはぐれだかの遠吠えが鼓膜を刺激する程度。
が再び口を開いたのは、しばらくそんな空白を過ごしたあとだった。
「ねえ、バルレル」
「ん?」
「あたし、もう、絶対、何があっても、ミモザさんの実験には付き合わない……っ!」
強く、強く。
こぶしを握りしめてつむがれた彼女のことばを、バルレルは、
「あっそ」
とだけ答え、さらりと流した。
――最初から付き合うなよ。
とは、さすがに傷を抉りまくるだろうと思い、遠慮してやったが故の応対だったのだけど。
これから、激動の日々が目の前で展開されるだろう。
そのことを、自分たちは知っている。
――だけど、今は。
今だけは。
もう少しだけ、いもしない神様を恨ませてほしかった。