発見したものを品定めしているダークたちの後ろで、はベベドアと一緒に立って待っていた。
あんまり遺品などに興味はないし、大量発見された精霊石も今の自分には必要ないし。
ベベドアもあんな性格だから、物欲とかはないんだろう。
手持ちの精霊石も、彼女(なんだろう。外見はそうみたいだし)は満タンのようだ。
「……ベベドアちゃんも、長い時間を越えてきたの?」
話しかければ、かっくん、と、ベベドアの首か傾げられる。
「わたし、ずっと眠ってた」
「そう……おんなじね」
誰かが起こしてくれるまで。
ずっとずっと、待っていた。
――あの子も、どこかで眠りから覚めるときを待っているのだろうか。
「逢いたいのね」
「……うん」
唐突に心を読まれた驚きよりも、ぴたりと云い当てられたそのことばに、ちょっとだけしんみりしてしまった。
逢いたいな。あの子に。
あの元気で楽しい、天界の魔王の娘に。
「あなた、怖がってる」
「うん」
知らない世界。
知らない場所。
ダークたちについて出てきて実感した。
数百年という歳月が変えた、この世界の在り様。
たったひとりで放り出されたようで、今も、ダークたちとはぐれたらあっという間に迷子になりそうで。
……あまりにも、自分の記憶と違い過ぎるこの世界で。
だから、あの子に逢いたい。
あの子ならたぶん、変わらずにいてくれるだろうから。
「なまえを、よんでくれるの」
「あなたのナマエ?」
「『』って。きっと変わらなく。笑って、わたしを呼んでくれるの――あの子は、いつも」
どんなに長い時間が過ぎても。
どれほどの悠久を経ても。
「ベベドアちゃん、少し、ちょこに似てる。色が赤主体でちっちゃいからかな」
思考に沈みかけた意識を、ぱっと戻して。
ベベドアに視線を落とし、はにっこり笑ってみせる。
「ちょこ?」
かっくん。
小首を傾げるそんな作り物めいた仕草も、見慣れるとかわいく思えるから不思議だ。
うん、と。
笑って、ベベドアに目線を合わせてしゃがむ。
「わたしの大好きな友達。ちょこって云うのよ。アクラって云った方が判るかな?」
「――アクラ――」
かしげられたベベドアの首が、ぴょこっと元に戻った。
ばね仕掛けの玩具のよう。
「それは、闇に染まれぬ闇のコト? 楽園を望みし、かつての魔族たちの王の娘?」
「あ、やっぱり知っていたんだね」
そうだよ、と、が頷きかけるのと同時。
「行くぞ!」
宝箱の中身を回収し終えたダークたちが、こちらに声をかけてきた。
「あ、はい! 行こうベベドアちゃん」
「」
「なに?」
立ち上がり、体温を感じない手を引いてダークたちの方に向かおうとしたに、ふと、ベベドアの声がかかる。
「わたしはあなたのナマエを呼ぶ。あなたはわたしのナマエを呼ぶ」
あなたは。
わたしはベベドア。
「・・・」
沈思。しばし。
ダークたちが痺れを切らすよりは早く、その時間は終わった。
そのことばの意図するものを察して、はこくりと頷いたのである。
「うん。ありがとう、ベベドア」
そんな微笑ましいやりとりを、ちょっと面白くなさそうに見ているのはデルマだった。
「なんだよ、何気に仲良くなってるし」
「えへへ。デルマも仲良しになりましょう?」
差し出された手を、デルマはしばらく眺めていたけれど。
「ま、まァそこまで云うんならしょーがないねッ!」
「ウフフッ。金緑の戸惑い。それより大きな薄紅のヨロコビ」
「うッさい!」
「まーまーまー。仲良し仲良し♪」
「ナカヨシ」
「……部屋を出るまでだぞ。カトレアの前にそれで行ってみろ。なめられること必至だ」
仏頂面のダークのセリフは、果たして女性3人に聞こえていたのかいなかったのか。
女三人揃えばかしましい――
そんな人間たちの間に伝わる諺を思い出してげんなりしていたのは、いったい男性ふたりのどちらだっただろうか。
14.奇跡のモノたち