BACK


ふっかーつ!


 闇の中、深く深く。深く深く。
 眠りつづける子供がひとり。
 、おやすみなさいなのー。
 一緒にお昼寝してくれる、大好きな友達の入った壺の横、自分の壺に身体半分だけ入れて。
 最後にそう云って、自分も眠った。

 誰かが起こしてくれるまで待つのー。

 だから、眠りのなかでずっと待ってた。
 誰かの声が届くのを。
 誰かの声が、自分を起こしてくれるのを。

 だけどそれよりも先に、友達の苦痛が伝わった。

 、痛いの?
 苦しいの? 泣いてるの?

 問うても答えは返らない。ばらばらに寝たのだから当然だ。

 
 痛いの?
 辛いの?
 寂しいの?

 傷つけられたの?

 ――起きなきゃ。

 いくらの迷いもなく、そう決めた。
 意識は眠りの狭間から、現実に向かって飛び上がる。

 ちょこはを助けるのー!





 ガタッ、と、闘技場の炎の傍に置かれた壺が大きく揺れた。
 最初は風かと思われたが、それは違うとすぐに判った。
 炎は全然揺れていない。
 なのに壺は揺れつづける。
 ガタッ、ガタッ、ガタガタッ。
 連続して。

 そのある意味不気味な様子に、をいたぶっていた魔族たちも動きを止めてそちらを見た。
 観衆の半分以上は、すでに壺に注目していた。

 そしてダークは。
「……まさかな」
 いやな既視感を感じて、そうつぶやいていた。

 そろそろ麻痺が切れそうなので、反撃に転じようとしていたは。
「……ま、さか……」
 決して麻痺のせいだけではない、ひきつった表情でそうつぶやいていた。

 一同の見守るなか。
 ガターン! と、壺が大きくジャンプする。
 ばっ! と、その中から人影がひとつ、飛び出した。


「ちょこ、ふっかーーーーつ!!」



 しん……と。
 場内は静まり返った。
 今目の前で起きた光景が、どうしても信じられないといった表情が多数である。
 それは観衆しかり、戦っていた魔族しかり――
 例外は、一度そんな光景を見たことのあるダーク。
 そういったことが起きても、動揺さえしないベベドア。
 デルマとヴォルクの立ち直りが意外と早かったのは、の出現したくだりを聞いていたからか。
 そして当のは。
 麻痺はもう消えたのだろうか、小刻みに身体を震わせて、うつむいている。
 きょろきょろと周囲を見渡していた壺よりの少女は、そんなを発見して、ぱっと表情を輝かせた。
ーっ!」
 ひさしぶりなのーっ!!

「……まさか、アイツが、のトモダチ……?」
「わたし、似ている……?」
「…………」

 見事な能天気ぶりに耐えられなかったか、ヴォルクが頭を抱えている。
 もっとも、気分的にはダークだって似たようなものだが。

 軽やかに、少女は階段を駆け下りた。
 向かう先は当然、がいる所。
「あなたたちがをいじめたのね?」
 ビシィと魔族たちに指を突きつけ、少女はそう云った。空いた片手は腰に添えている。
 そうして、呆気にとられていた魔族たちがそれで我に返った。
「なんだテメエは!」
「テメエもおれたちにやられてぇのか!?」
「泣いて帰ってお母ちゃんのオッパイでもしゃぶってなッ!」
「ちょこ、お母さんいないの! おっぱい飲むよーなこどもでもないのっ!」
 ずるり。
 至極まっとうなその返答に、魔族たちがコケる。
「やかましいッ! テメエもぶっ倒してやらぁ!」
 結局ふたりまとめて始末することにしたのだろう、いつの間にか起き上がっていた3人目もが混じって、一気にたちのいる場所へと迫る!

 本来なら。
 ここで、割って入るべきなのだろう。
 は麻痺が解けたばかりのようだし、出てきた少女はベベドアと同じくらいの身体つきでいかにも戦闘には向いてなさそうだし。
 だが、ダークたちは動かなかった。
 一連の緊迫が失せ、疲れたというか呆れたというか、そんな視線を試合場へと向けるだけだった。

 にーっこり。
 少女が笑う。
 天真爛漫な、無邪気な笑顔。
 その笑顔の意味するところを正確に悟れた者は、果たしてどれほどいたのだろうか。
 ばっと天に向けて掲げられる両手。
 たちまち生まれる光――焔?

「いっちゃえ――――ッ!!」

 焔が不死鳥の姿をとる。
 まるで意志を持つかのように、向かい来る魔族たちへ向けて飛び込んでいく。
 その、刹那の間の後。
 試合場を、紅蓮の焔が埋め尽くした。



20.お仕置きメテオフォール


■BACK■



わーい、ちょこ出ました、出ましたー♪
二周目からは死に物狂いで、初回ルルム訪問時にちょこゲットですよ。