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お仕置きメテオフォール


 そこでヴォルクが活躍した。
 焔に巻かれて逃げ惑う魔族たちの、混乱しきった中央からとくだんの少女をひっかかえて脱出してきたのだから。
 ついでに、今ごろになってのこのこと出てきたカトレアもつかんで。
 命令を下したダークと一緒に、彼らは一目散に闘技場を後にした。
 宿では近すぎるとの判断で、まだ誰も出てきていないルルムの街中を突っ切り、少し離れた平野部にて彼らはようやく落ち着いた。
 ヴォルクが、抱えていたとちょこを地面に置く。
 それと同時に、がばりとふたりとも身を起こした。
 見守る一同も目に入っていないのか、じぃっとお互いを凝視する。
「……ちょこ……?」
「やっぱりなのー! 痛くない? ケガしたでしょ? 痛いの痛いのとんでいけーっ!」
 呆然としたに対して、少女は元気そのものだった。
 一気にそう云うと、ぱぁっと両手を上げて光を呼び込む。
 キュアよりももっと強い光が、瞬時にして満身創痍だったを癒していく。
「……そ、その、のー天気っぷりは、ちょこ、よね」
 夢を見てるんじゃないかと、思ったけど。
 ほんとーに。
 ほんものの。
 ちょこなのよね。
「ちょこはちょこなのっ! 、もうだいじょうぶよ!」
 ぱしーん。
 輝かんばかりの笑顔で迫る少女――ちょこの頭を、の平手が勢いよく引っぱたいていた。

「……?」
「『?』じゃないわよこの大バカ娘っ! あなたいったい何考えてたわけ!? 数百年も眠らされるなんて聞いてなかったわよ!!」
「えっ、えっ、ちょこ、ちゃんと云ったの! 一緒に、誰かが起こしてくれるまでって云ったわよ!?」
「それはわたしを壺に押し込めた後でしょ! 事後承諾は除外するに決まってます!!」
「だっ、だって……」
「だって?」

「びっくりさせよーと、思ったの……」

「このバカ――――ッ!!」

 びっくりしたわよそれはもう思いっきり!
 壺に押し込められたりしたのはまあいいとして、次に目が覚めたらどことも知れない廃屋のなかよ!?
(「廃屋……」←ダーク談)
 しかもあなたが寝てるはずの壺は傍にないし、ダークさんが起こしてくれなかったらあと何年眠ってたか!
 でもって世界は素晴らしく様変わりして右も左も判らないし、いろいろ変革とか問題とか騒動とか起こってるし!

 ちょこを正座させて、のお説教は数分ほどつづいた。
 数分ですんだのがある意味奇跡か。
 もっともそのほとんどが怒鳴っていたので、息が切れたのかもしれない。
 ことばが途切れたときには、の息はそうとう荒かったのである。
「……まったく……」
 ぜぇ、はあ。
 よほど力がこもっていたのか、ほんのり頬を染めて、はひとつ息をつく。
「無事に見つかったから良かったようなものの……壺が他人に見つかって、バラバラになる可能性は考えなかったわけ?」
 まあ、あなたが考える方が間違ってるかもしれないけど。
 何気にひどいセリフに、けれど、ちょこは首を傾げて。
「でも、その方がきっと、探し当てたときのびっくりも大きくて楽しいと思ったのー」
 いざ探せ、の入った壺! って気持ちだったのよ。

「・・・・・・」
?」

 くりっ、と、ちょこがを覗き込む。
 覗き込んで――
「きゃーいの、本気で怒ってるのーっ」
 セリフだけは怖がりながら(表情も声音も全然そうは見えないが)、すぱっとその場を飛びすさる。
 それを聞いたデルマが、「げげっ」と云いながら身をひいた。ちゃっかり、ちょこからも距離をとるように。
 ダークとヴォルクも、しれっと数歩下がる。カトレアとベベドアがそれを追ってきた。
 その、次の瞬間。

「もう怒ったーっ!」

 がばぁ! とが立ち上がる。
 見慣れた放電現象が彼女の周りを縁どっていた。

「きゃーいのーっ! ごめんなさいなのーっ!」
「いーえ今日という今日は許しません! 大地よ我が声を聞け! お仕置きメテオフォ――ル!!」

 走って逃げようとするちょこに向けて、轟ッと強風が吹き付ける。
 その風でめくり上げられた岩盤が、怒涛をなしてちょこに飛びかかっていった。
 並みの魔族なら、それでひとたまりもあるまい。
 が、が友達というだけあって、またさっきの焔ともあいまって、ちょこ自身もただの存在ではなさそうだった。
 それを証明するように、岩盤がすべて襲いかかったあとでも、後頭部を押さえて「いたいのー」と半泣きになっているだけである。
 ……只者じゃない。あらゆる意味で。

 岩盤がひっぺがされたあとの地面を見て、カトレアが気の抜けた声で云う。
 周囲をうかがうような、少し高慢な響きは今はなく、完全に呆気にとられているのがよく判った。
「おお、見事なクレーターが開きおりましたのう」
「……アタシ……だけは怒らせないようにしよ……」
 死ねるってアレ。
「豪快な仕置きもあったものだな」
 それだけかとツッコミたくなるような、そんな感想を述べるのはヴォルクだ。
 ウフフッ、と、ベベドアが笑った。
とちょこ。お仕置きして、お仕置きされる。お仕置きは、怒りが基にあるハズなのに、今のふたりにあるのはヨロコビ。桜桃色の再会の歓喜」
 一行が暖かく(?)見守るなか、のお仕置き第二弾が炸裂しようとしたときだ。

「――

 静かなダークの声が、ぴたりとの動きを止めた。



21.誓いを次にひとつ


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めったにはしゃげないからこそ、こういうの大好きです。