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束ね導く人


 とりあえず、やることは決まった。
 竜の試練を受けるべく、目指すは竜骨谷。
 といっても、やることなすこと必ず何かの障害が待ち受けているのは、ある意味世の中の摂理であって。
 こんなときでさえ、それは例外ではなかった。

 ――白い雪の降り積もる、竜骨谷の洞窟の手前で。
 再び、たちはディルズバルド軍と激突したのである。

 もう何度目かということもあって、さしたる苦戦はない。
 以前よりは鍛錬を積んだ兵が配置されているようだが、軍隊としての統一された行動しか出来ない彼らなど、その行動を読むのは容易いことだった。
 ましてや、こちらにはぱっと見いかにも戦闘向きでなさそうなとちょこがいるのである。
 向こうが勝手に油断して向かってくるのだから、それで倒されても文句は云えないというものだ。
「いっくのー! ゴーゲンおじーちゃん直伝、サンダーストーム!!」
「同じくエルク直伝、エクスプロージョンっ!!」
 ……一撃必殺。
 どうせ竜の試練とやらに、半精霊の自分は参加できない。
 ましてや、ちょこみたいな破天荒娘連れて行かせるわけにいかない。
 ドラゴニアでは外で待機して何もしなかったし、だったらと露払いを志願して出て、ほんの数分後のことだった。


 死んでいるのか生きているのか判らない仲間を引きずって、ディルズバルド兵たちがほうほうのていで逃走したあと。
 雪の中に倒れ伏す、こちらはすでに息絶えたディルズバルド兵の横を抜けて、一行は洞窟の入り口の前に立った。
 ヴォルクは逃げた彼らにとどめを刺したがっていたけれど、今はその時間が惜しいとダークが止めて。
 そして、そのダークは今しがた、洞窟の中へ進んでいった。
 ――竜の試練は、長となる者がひとりで受けるのだそうだ。
 それを聞かされたとき、誰も動揺しなかった。
 ダークが試練に敗れることなど、誰も、考えもしなかった。
 誰も何も云わなかったけれど、それをことばで表すなら、信頼というのがいちばん近かったのかもしれない。
 ……そうだね。
 誰かが思った。
 ……ダークを信じてるから、今自分たちはここにいる。
 そう考えた。
 ……魔族の王になり、自分たちを導いて、善い世界をつくってくれると。

   信じる、ということ

 それは、魔族にとっては似つかわしくない感情。
 縄張り意識が強く、優劣は力の強弱で、弱き者は虐げられて当然、強き者が幅を利かせる。
 時には同族同士で殺し合うことさえ、稀ではない。

 それが魔族。

 だのに、今の自分たちはどうか。
 オルコ族にウーファー族、ピアンタ族に加えて最凶のモンスターやら精霊ハーフやら、純正魔族やら。
 こうもバラバラで。
 統一感さえないのに。

 今、どうして、同じ思いを抱いてここにいるのだろう。

「ダーク、無事で帰ってきますよね」
「あったりまえだろ! アタシたちが信じなくてどーすんだよ!」
「だいじょうぶなのー! だって、ダーくんは男の子なんだから!」

 微笑ましく繰り広げられる、少女(一名除いて疑問符つき)たちのやりとりを、どうして当然と思うのか。
 同族でもない、ましてや付き合いも浅い自分たちを。

 ――ほかのだれでもない、

 束ねて導いて、そして歩いていくのは。




30.遠い背中


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