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東方司令部のこんな日常。 |
ぱたぱたぱたぱたぱた。 かちゃ、 「大佐ー」 ぱたり。 たったったったったっ。 がちゃ、 「大佐ー?」 ばたん。 たたたたたたたたた。 がちゃっ、 「大佐ー!?」 ばたーん。 だだだだだだだだだ。 「大佐大佐大佐大佐ー? たーいーさーーーーーー!?」 むんず。 「こらこら、少尉? 司令部の廊下は走っちゃいけませんって先生から教わっただろ?」 「・・・あ、ハボック少尉」 書類小脇に抱えたままで、襟首つかまれたはバツの悪い顔になってハボックを見上げたのだった。 机の上には山と溜まった決裁書類。 空になったコーヒーカップ。 書類の占領していない一角に、一枚のメモ。 『後はよろしく。 ロイ』 に大佐の執務室へと連れてこられ、それを見たホークアイとハボックは『またか』という顔になる。 「・・・大佐にも困ったものね」 はあ、と、ため息をつきながらホークアイがメモを手にとった。 それを見上げて、顔をしかめたままのが、 「書類とって戻ってきて、部屋に入ったらいきなりそれだったんですよ? 信じられますっ!?」 「あー、信じる信じる。ってかあの人は(自主規制)日に一度はこんなことするんだ」 「・・・・・・」 東方司令部に到着して2日目。 とりあえず大佐に付いていろいろお勉強するはずだったの、本格的な仕事の開始日。 まさか当の大佐本人の逃亡から一日が始まるなぞ、誰が想像出来ただろうか。 「わたしっ!! 大佐ひっつかまえてきます!!」 「あ、・・・」 怒りに身体を震わせて、止める間もなくが走り去った後。 ホークアイが持っていたままのメモを手にとって、ハボックがふと首を傾げた。 「しかし、何だ? なーんか、いつもと違うと思わんか?」 「そうねえ・・・・・・いくら大佐でも、を放り出してまで遊びには行かないと思うんだけど・・・」 ・少尉の赴任の通知(詳しい理由など何もなく、ただ翌日から東方勤務とだけ伝えられたものだから、いったいどうしたんだと思ったものだが)が、彼女の到着より一日早く司令部に打診されたとき。 親愛なる大佐殿が、一日中ご機嫌だったのをふたりは覚えている。 もうちょっとピシッとしてください弛みまくった顔で仕事されると士気に関ります、とまで云われたほどだ。 「……、気がついた」 「何を?」 メモをひらひらさせていたハボックが、それをホークアイにつきつける。 指差すのは、大佐の署名の部分。 「『マスタング』じゃなくて『ロイ』だ」 「・・・あら、云われてみれば」 「つまり、やっこさん、あからさまに目当てで今回やりやがったと云うわけだな」 顔を見合わせるホークアイとハボック。 しばらくメモとお互いを見比べた後、小さく肩を落とした。 「……子供(ガキ)か、うちの大佐は」 「同意するべきかフォローするべきか、悩むところね」 イーストシティ、繁華街。 ラジオから流れる天気予報が、今日のこんなにいいお天気をひっくり返して、明日は雨だとのたまっている。 午前中からそういう予報をされたおかげか、ならば午前中にともくろむ人がいるらしく、窓辺に広がる洗濯物は昨日通りすがりに見かけたより多い。 今朝方早く、ロイに追い出されたエルリック兄弟はどのへんの宿に転がり込んだんだろうと思いながら、はひたすら走っていた。 落ち着いたら連絡するよ、と、ふたりは云っていたし。 とりあえず、今するべきことは公務ほっぽりだして逃走した焔の錬金術師を捕獲して司令部に連れて帰ることである。 何人かの士官から聞き込んだ、ロイの行きそうな場所をしらみつぶしに捜して走る。 「マスタング大佐を追いかけてるのかい? 大変だね、これでも持って行きな」 「大佐なら、さっきあっちに歩いて行くのを見たよ。やけに楽しそうだったな」 「ああ、あの大佐なら天気のいい日は――」 通りすがりの果物屋さんからもらったリンゴを片手に、繁華街を抜け、ひたすらまっすぐ。 だんだんと民家が少なくなり、緑が増えてきた。 そうして辿り着いたのは、市民公園。 「……大佐が市民公園?」 だが、たしかに、最後に大佐の行方を尋ねた街の人はそう云っていた。 天気のいい日は、大佐はこの道を真っ直ぐ歩いて行き、一時間ほどでまた司令部の方に歩いて行くんだと。 で、示された道を真っ直ぐ走った結果が、今が目にしている光景なのだけど。 それなりの面積を用いてつくられたらしい、文字通り市民の憩いの場。 しっかり整えられた芝生に、品良く整えられている木々。 散歩を楽しんでいる老人や、子供を遊ばせつつ井戸端会議の奥様たち、トレーニングだろうかジョギング中の若人。 噴水のある広場には、お菓子の屋台があって、親にねだっている子もいる。 のどかである。 本当に、つくづく、のどかである。 なんていうか、軍属の錬金術師が訪れるよーな場所ではない気がする。 しかも、あのロイ・マスタング大佐が。 こんなトコロに来る暇があるなら、さっき通り抜けてきた繁華街の裏路地あたりの怪しい店で一杯ひっかけていそうな感じがするのだが。 入り口に突っ立ち、中を探索するべきかどうか悩むコトしばし。 とりあえず見るだけ見て帰ろうと、は一歩を踏み出した。 「だーれだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」( ̄- ̄#)←顔がひきつったらしい 気配を殺して後ろから忍び寄って、覆い被さるようにの頭のてっぺんに顎押し当てて。 その大きな手のひらで、目どころか顔の半分さえ隠しつつそう云ってきた人間を、は嫌というほど知っていた。 誰だもへったくれもあったもんじゃない。 捜していた張本人だ。 ひっぺがそうと手を当てる。が、 「答えないと放さないよ」 なおさら力を込めて、そう云ってくる始末。 「・・・大佐ですよね?」 ふざけてないで司令部に戻りますよ。 今度こそ解放してもらおうとしたものの、やっぱり手のひらが離れる気配はない。 答えんたんだからとっとと放せというのオーラを察したのか、頭の上で大佐が笑う。 「。俺の名前は?」 少尉、ではなく、と。 私、ではなく、俺と。 そこまで云われて含まれているものに気づかないほど、は鈍くない。 やっきになって引き剥がそうとしていた手の力を抜いて、代わりに、ちょっとため息をついた。 「ロイ兄さん」 「はい、正解」 至極うれしそうな声と共に、ようやく視界が自由になる。 薄暗かった状態から、急に青空の下に戻った目を、少しまたたきして馴染ませてから、振り返った。 ――声と同じくらい、うれしそうなロイの顔が真っ先に目に入った。 自信に溢れていると云うか、人を食っているというか、そういう笑みではなくて。 軍属の錬金術師が、こんな公園にくるのは似合わないと思っていたけれど、ちょっとくらいなら考え直してもいいかと思ってしまった。 「・・・何も人の勤務初日に逃げ出さなくてもいいじゃないですか」 盛大に文句を云ってやろうと思っていたのに、結局、出たことばと云えばそれだけだった。 それを聞いたロイは、返事のつもりなのか軽く肩をすくめる。 「帰ったらちゃんと仕事するよ」 だから、。昼までちょいと付き合いなさい。 「ロイ兄さ・・・」 あの机の上の書類が、半日で片付くとは思えない。 そう云おうと開きかけたの口に、 ひょい、と。 「んく?」 反射的に口を閉じて、投げ込まれた丸いものをころころ。 甘酸っぱいものが、味覚を刺激する。 「・・・飴?」 「そこの屋台でね」 コートに左手を入れて、取り出した透明な袋のなかには、色とりどりの飴玉。 「・・・・・・最初からそのつもりだったの?」 ころころ、口の中で飴を転がしながら。 尋ねたに、ロイは、さあねと笑って答えるだけ。 それから、一歩公園の奥に進むように踏み出して、くるりとに向き直る。 「さて。昨日のデートの約束覚えてるね?」 「・・・約束してませんってば」 そう云って、は困ったように笑ったけれど。 たぶん、ロイの差し出した手をとった時点で、それが反論にすらなっていないのは本人承知の上かもしれなかった。 「ああ、少尉? さっき大佐捜して駆け回ってたよ」 「こっちにも来たな。着任早々かわいそうに」 「14で国家錬金術師でしかも特例で中尉だったろ、どんなエリートかと思ってたら・・・」 「なんか、年相応って感じでかわいいわよね。うちの部署に配属にならないかしら」 「あんなに一生懸命に捜される大佐がうらやましいぜ」 東方司令部食堂で、ふとホークアイとハボックがこぼした、『少尉はどこまで行ったんだろう』という会話に、周りの士官たちが一気に乗ってきて、食堂は一気に賑やいだ。 どうやら少尉は外に駆け出たらしいという情報とともに、司令部中を走り回ったらしいことが判明したのだが―― 考えてみれば、右も左も判らないのだからしらみつぶしに当たるしかないわけで。 となれば、司令部の人間のほとんどには遭遇するわけで。 いつの間にか寄り集まって話し始めた他一同をしばらく眺めていたハボックは、肩をすくめて両手を広げた。 それから、目の前でパンをちぎっているホークアイに話しかける。 「まさか、そこまで計算してたのか? 大佐」 「・・・さあ・・・」 小首を傾げて、かすかに口の端を持ち上げて。 「とりあえず、同意じゃなくてフォローすることにしておくわ」 と、ホークアイは付け足したのである。 |
いいのか、こんな人間が大佐やってて。 でも人望はありそうです、ロイ兄さん。(兄さんってあんた) とりあえず、なんだ。やっぱり過保護が好きみたいですね、管理人。 ......エンヴィーが相手のときも過保護されるのか? するんだろうか。 人柱候補相手に、過保護やってどーするんだろ...(決定事項かよ) |