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ただ、それだけ


 ころん
「・・・」
 ころころん
「・・・・・・」
 ころころころころ・・・
「・・・・・・・・・・・・姉。」
「なあにー?」
 ぴたり。

「暇?」
「うん、暇」
「熱は?」
「もう下がったよ」
「本当に?」
「転がるくらいは元気だってば」

 読んでいた本を閉じて、エドワードは立ち上がる。
 枕を抱えてベッドの上で転がり体操(謎)をしていたのところまで行って。
 ほら、と、手を差し出した。
「エド君?」
 その手をとって身体を起こしながら、の言外の問い。
「ああ、調べものはだいたい終わったから」
「そう?」
 ならいいんだけど。
 少し心配そうな口調だけど、嬉しそう。

 が嬉しそうだと、エドワードもなんとなく嬉しい。

 昨夜、は少し熱を出した。
 安静にしておけばだいじょうぶだろうって宿の女将は云ったから、そうさせた。
 朝になって本人が元気だと云ったけれど、ふたりでなだめすかしてベッドに戻して。
 アルフォンスは出かけ(気を遣ったんだろうか。←何に)、エドワードは調べもの。
 は不精不精だけれど、黙ってベッドに潜り込んで。

 時計の針はくるくるまわり。
 気がつけば、お日様はもう中天から傾こうとしていた。

 が転がりだすのが視界に入らなかったら、きっと夕方まで退屈させていたかもしれない。
 ・・・傍にいる限り、この人を視界に入れないわけはないんだけど。

「図書館、行くか」
「アル君迎えに?」

 そうだね、行こうか。
 上着を羽織りながらが頷いた。

 ふたりで並んで宿を出る。
「あれ? 図書館こっちじゃない?」
 違う方向に歩き出したエドワードを、が呼び止めた。
 赤いコートを風に吹かれるままにして、エドワードは振り返る。

「散歩してかねえ?」

 にまっと笑ってそう云うと、の目がきょとんと丸くなる。
 丸くなった目は、次の瞬間、嬉しそうに細められた。

「うん!」

 小走りに駆けて来て、はエドワードにしがみつく。
 普段なら照れて振り払うけど、今日は姉は病人だから倒れちゃダメだから。
 しがみつかせたままにしてくれるエドワードを見て、の表情がまたほころんだ。

「エド君」
「何?」
「楽しいね」
「ああ」

 帰りにも散歩して帰ろうね、アル君と3人で。
 そう云って笑うを見て、エドワードも笑った。

 君が楽しそうだと、俺も楽しい。 ただそれだけ。


■BACK■



なんか、エド相手で書くと初々しいと云うかなんというか(笑
エドからすれば年上の姉ちゃんなんだけど、自分が守る! みたいな感じ。
かな? と、わたしは勝手に思っていたりするのですが。
大好きな人が嬉しそうだと、自分も嬉しくなるのです。きっとそれだけ。