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なまえを呼んで?


 とりあえず。
 目標達成のためには、何をすべきだろうかと考えてみた、鋼の錬金術師。

 結論。

 呼び捨て出来るようになろう。



「唐突だけど、今度から呼び捨てしていい?」

 窓辺で読書としゃれ込んでいたは、きょとんとエドワードを見返した後、
「うん、いいよ」
 と、笑って答えた。

 ごほん、と、ひとつ咳払い。
「あー……じゃあ」
「うん」
 わざわざ本を閉じて膝においたが、エドワードに向かい合う。
 何が楽しいのか、にこにこしながら。
「・・・・・・」
「……」
「えっと……見てられると、そのー」
「そう?」
「普通にしてくれてればいいからさ。本読んでてくれよ」
「うん、判った」
 くすっと微笑んで、、再び読書体勢。
 さっきと同じように本を膝の上に開き、視線を落とす。
 窓から入り込む風が、時折、彼女の黒い髪を軽く持ち上げては遊ぶ。
 そのたびに、日の光を反射して――

 (ハッ)って見惚れてるんじゃねえ俺!!

 大きく息を吸って、一度止めて。
 吐き出すときの勢いを利用して、せーの。

――……」
「うん?」

 って。

「早すぎ!」
 ビシッと空中裏拳。
「あ、ごめんごめん」
 気が急いてるのかな、と、釈明が返る。
 エド君に呼び捨てされるの初めてだから、ちょっと緊張するね。

 そう云って笑うより、エドワードの方が何倍も緊張しているの、判ってるんだろうか。

 やばい。
 一度失敗したら、よけい緊張してきた。

 なんでこんなに息苦しくて、心臓の音でかくなるんだろう。
 ただ、名前を呼ぶだけなのに。
 いやそういうこと考えてる場合じゃなくて、姉待ってるんだし。
 ……待ってんのかなほんとに。
 呼び捨てされるの迷惑とか、思ってねえかな。
 姉優しいから、嫌だとか普段云わないんだよな。

 あ、なんか自信なくなってきた……

「・・・エド君?」

 ふわり、と。
 固まってしまったエドワードを心配したのか、が椅子から立って。
 ちょっと背をかがめて、下から見上げるように覗き込んできた。

「無理しなくてもいいんだよ?」
「む、無理なんか……」

 うまく口がまわらない。
 燈金色の双眸に映る自分が見えるほど、至近にがいるせいか。
 そうして、その瞳がゆっくりと細められて。

「ほんとうはね、姉さんって呼んでもらえる方が、好きかな」

「・・・・・・え・・・・・・」

 だって、姉って呼んでくれるの、エド君だけだもん。
 姉さん、っていうのもアル君だけで。

「・・・・・・」

「なんとなく、頼られてるって感じがして、嬉しいし・・・」

 エド君もアル君も、たいていのコトは、いつも自分たちでなんとかしちゃおうとするし。
 実際、出来ちゃうから。

「呼びかただけでもって思っちゃうの。……迷惑かな?」

「そんなことないって!」

 いつになく強い調子の否定に、がびっくりして目を見開く。
 でも、エドワードの声には怒りも類似の感情もなく、ただ否定の気持ちが強いんだったんだと判って、すぐにまた表情を和ませた。

 ――ふと。
 あれだけ激しく脈打っていた心臓が、いつの間にか鎮まっているのに気がついた。
 何かが絡んだみたいに上手く動かなかった口も、今なら普通に動かせそうだ。

 呼べるか?
 今がたぶん、チャンス。
 呼んでしまおうか?
 たぶん、もう、しばらく機会はこない。

……」

 一気に。ほら。

「…………………………姉。」

 だああああああああああ。
 こう呼ばねえとしっくりこなくなってる、俺の口自体をまずどうにかしろーーー!!

 とか脳内でのたうっているエドワードの苦悶など知らないは、
「はい、エド君」
 と、実に楽しそうに応えてくださったわけで。

 ・・・ああ。もう。

 やっぱまだ、役不足?

 認めるのは実に悔しい。
 なまじ、頼れる兄とも云える存在が、の傍にいるのだからなおさらだ。
 ……まあ、は、本当に兄としか思ってないみたいだけど。
 ……まあ、自分たちのことも、弟と思ってるんだろう。(自爆的思考)

 でも。
 いつか。

「絶対呼び捨て出来るようになってやる!」

 君を包み込めるくらい。
 君をいつも守れるくらい。

 それくらい、成長できたなら。

「うん、待ってる」

 そう微笑ってくれる君を、いつかきっと、この手にしたいから。

「おう、楽しみに待ってろよ姉!」
「うん、楽しみにしてるね♪」
 そんな感情に、今はまだ、気づかなくてもいいし、単に、年下とはいえ男としてのプライド故だと思ってていいから。

 ――待ってろ。
  そのうち絶対、俺が気づかせてやる。


 とりあえず、達成すべき目標の前に、鋼の錬金術師には、やるべきコトがいくつか出来たらしい。


■BACK■



初々しいなあ、もう!(壁げし)
こんなエド偽者だああ! とのたうちまわりたいおぜうさん(誰)、お気持ちは判ります。
判りますから投石は勘弁してくださいー!!(笑) ツッコミは可。(ぉひ
なんていうか......頑張ってくれ、エルリック兄。ところでアルは何処行った?