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いっしょがいいね


「……エド君、手伝おうかー?」
「いい。姉は見ててくれ・・・・・・うおらぁッ!」
ー。ほっときなさいよ、自業自得なんだからー」
「頑張れ兄さんー」
「頑張れエドー」

『おまえが云うな』

 以外の全員が、パニーニャにツッコんだ。



 すたすたすた。
 てくてくてく。
 すたすたすたすたすた。
 てくてくてくてくてくてく。
 すたすたすたすた・・・・・・
 てくてくてくてくてく・・・・・・

 ぴたっ

 機械鎧の聖地にて、某スリ少女パニーニャと大がかりなおっかけっこを演じた鋼の錬金術師、エドワード・エルリック。
 彼は、その際に壊した街の修復を錬金術で行うべく、街をそれこそあっちうろうろこっちうろうろの状態だった。
 そうしてエドワードに同行していたうちの一人、朱金の錬金術師こと
 彼女は、そんなエドワードの後を心配そうに、小走りについてきていた。
「あのな姉」
「うん」
 とりあえず、ぱんっと両手を打ち合わせて、瓦解した壁の修復しつつ。
 ぐりっとを振り返り、エドワードは口を開く。
「ついてこなくていいって。俺がやったんだから、しょうがないだろ?」
 だからちゃんと、広場のアルたちの所で待っててくれよ。
 いや、まあ、疲れきってる自分を心配してくれてるのは判る。
 第一エドワードは怪我が治ったばかりで、体力がないことだってはよく知ってるだろうし。

 だけど。
 怪我の原因となった、第五研究所崩壊の騒ぎのときから、はやけに心配性になったみたいだった。
 いや、エドワードが瀕死で病院入りしたときには、某軍曹と少尉を差し置いて真っ先にエドワードに雷を喰らわせるほど、怒っていたんだけど。
 たしか大総統が来たあたり、からだ。
 時折、表情に陰が落ちるようになったのは。
 自分が内部で番人二人や変な二人組みと事を構えている間に、の方でも何かあったんだろうか?
 でも宿に異変はなかったというし、自身もそれは否定していて。
 そうなると、エドワードとしてはむしろ、の方が心配に思えてしまうのだ。

 身体の怪我は休養と薬があれば治るけれど、心に何かを抱えた重みは、そう簡単に消えることはないだろうから。

 現に今だって、は眉を八の字にしてエドワードを見ている。
 心配なんだよと一生懸命訴えているそれは、だけど、怪我に依るものだけじゃない。
 じゃあ何?
 訊いてもたぶん、この口の堅い姉代わりは、答えてくれないんだろうけれど……

 いっちょ玉砕してみるか?

 ぽり、と後頭部に手をやって、エドワードは身を翻した。
 ちょっと後ろに立っていたの目の前まで歩いて、彼女を覗き込む。
姉の方に、だいじょうぶ? って訊きたいけど、俺は」
「……だいじょうぶだよ?」
 どうしてそんなこと訊くの?
 きょとんとしたその表情に、思わず額を叩きたくなってしまった。
 玉砕決定。
 自覚してない。絶対。
 いつもみたいに弟を心配してるんだと、自己分析完了済みだ。これは。

 さて困った。
 そうなると、無理に訊きだしたりとか、しづらい。

 ウィンリィにはお互い遠慮なしにビシバシやっているけれど、とウィンリィもそんな感じだけれど。
 どうにもこうにも、エドワードは相手だと、まず姉ってよりも幼馴染みってよりも、女性っていうのを意識してしまって。
 壊れ物みたいな硝子細工みたいな。
 下手につっついたら、割れて砕けてしまいそうな。
 そこまでがやわじゃないのは知ってるけれど、それでもつい。

 ・・・大事にしたいって気持ちが強すぎて。

 某大佐みたいに、そういう部分上手く立ち回れない自分を、嫌というほど自覚はしている。
 とりあえず、不躾にあれこれツッコんで訊いてしまうような無神経じゃなかったことを、ちょっぴり感謝しよう。

 で。
 さしあたっての問題は。
 のその心配しまくりな顔を、どうやって戻してアルフォンスたちのところにいてもらうか、ということだ。

 トントン、と、さっき修復したばかりの壁に寄って、叩いてみせる。
「壊した俺が云うのもなんだけど、もし崩れたりしたら危ないから、広場で待っててくれないか?」
「でもほら、ふたりでやったほうが早いよきっと」
 あ。
 お姉ちゃんの顔になった。
「それにエド君、怪我治ったばかりだし、一人にしとくと心配で……」
 ことばの中ほどまで、そのまま。
 後半からは、また陰りがち。

 それから、トドメ。

「一緒じゃだめ?」

 ・・・・・・これで頷かなかったら男じゃねぇ。


 こっくり。

 エドワードが首を上下させた瞬間、の表情がぱぁっと明るくなる。
「ありがとう!」
「でも後始末は俺がやるからな。俺が壊したんだし」
 腕にかかるの重みを、心地いいなぁとか感じてしまう自分を、ちょっと恥じつつ。
 精一杯厳しい表情をつくってそう云った。
「じゃあ、きついみたいだったら云ってね。代わるから」
「ああ」
 絶対云わねーけど。
 そう考えながら、エドワードは足を踏み出した。

 ・・・ところでこれ、久々にふたりきり?

 そんなことに気づいてしまって、むしろ意図的に帰り遅くしたろか、とか思ったりするのは、あと数分後。



  だめなわけない。一緒がいいに決まってるから。


■BACK■



ああもう、なんでエドさん書くとこんななっちゃいますか。
ひたすらに心配してくれるおねーちゃんを「もういいよ」って突き放そうにも
突き放せない、微妙な気持ちって感じで。うわ青い(笑