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非日常


 ふと、思い出したのは。
 いつだったか、焔の大佐殿がどんな奴なのか、好奇心で東部に足を伸ばしたときの記憶。

 天気の良い日は嫌いじゃない。
 ていうか、それなりに好きかもしれない。
 軍部に行ってみたら大佐は遠征中で、午後には帰ってくるらしく。
 ならば時間を潰そうと、ふらりと立ち寄った先は小さな公園。
 穏やかな公園に、黒ずくめの格好はちょっと浮いていたけれど、別にそれは気にならなかった。
 むしろいちゃもんつける奴がいたら、ぐっちょげっちょにしてやろう、とか思ってた節もある。


 ああ、そうだ。
 陽だまりの下がよく似合う子だと思ったんだ。

 足元に転がってきたボールは、ゴムなのか金属なのか微妙な材質。
 錬金術によるものだとすぐに判った。
 2種類のモノをかけあわせる錬金術を行使する者は、あまりいない。
 土の山から煉瓦を、とか、単一属性物質の加工が主流らしいので。
 焔の大佐以外に、有名どころがこの街にいたっけ?
 そう思ってボールを手にとって。

 そこに、ぱたぱたと駆けてきた当人だとはまさか、思いもしなかったのがある意味不覚。

「ごめんなさい! それわたしが――」

 遠投でもしていたんだろーか。
 それなりの距離を走ったらしく、頬を上気させてその子は云った。

 機嫌は悪くなかったので、いいよと笑ってボールを返した。

「ありがとう!」

 笑うその顔があまりにも幼くて、いったい幾つなのかと訊いた気がする。
 むぅっ、として、15です! と云うその仕草がまたこどもっぽくて、爆笑した。
 何か云いたそうにしていたけれど、ボールをとってもらった恩でも感じてたんだろうか。
 結局自分が笑い終わるまで、むくれたままで見ていたけれど。

 あまり誠意なしに謝って、それから名前を訊いて。
 そこで初めて、当人なのだと気がついた。



 。朱金の錬金術師。

 そういえば、焔の大佐が猫っかわいがりしてる後輩錬金術師がいるって。
 ……この子のこと?
 尋ねたら、猫っかわいがりかどうかはともかく、ロイ兄さんにはご近所のつてでお世話になりました、と答えが返ってきた。
 どうして判ったんですか、と逆に質問されて。
 なんとなく。そう答えたら、おかしな人、と笑われた。悪い気はしなかったけど。


 ありがとうございました。 じゃあね。

 そのことばを最後に、あの子は来たときと同じように走って戻り、自分はまた、午後まで時間をつぶすためにベンチに座りなおして。


 ――それはたぶん、あの子にとっては何気ない日常の一幕。
 ――それはたぶん、自分にとっては日常でなさすぎて印象に残った一幕。


 ふと、思い出したのはそんな記憶。



「どしたの、ラスト」
 急な呼び出しに出向いてみれば、べしっ、と、どこぞの建物の見取り図と顔写真付きの書類が投げつけられた。
 見事に顔面キャッチ。
 当然口からこぼれるのは、盛大な文句。
「何すんのさいきなり!!」
「人柱候補が死にそうなのよ」
「・・・・・・は?」
 ちょっと赤くなったかもしれない鼻をこすりつつ、不精不精書類に目を落とす。

「――――」

 真っ先に目に入ったのは『』その名前。
 そうしてその横の称号『朱金の錬金術師』。

 その下のもう一枚の書類には、なにやら軍部所属のお偉いさんらしい中年男の調査書類。どーでもいいけどコレは。

 それから最後に、ひとまわり大きい紙に建物の見取り図。地下室らしいそこに、べったりと赤丸。

「金属錬成に目をつけたその男が、地下に監禁して力づくで貴金属の違法練成させようってハラらしいわ。相当拷問も受けたようで、このままじゃ死ぬかもしれないのよ」
「・・・・・・で、うちの出番になったわけ?」
 っていうか、その子なんでつかまる前に殺らなかったのさ。錬金術師なら朝飯前だろに。
 そう云ったのは、先程ちらりと感じた動揺を隠すためだったのかも。
「バカね」
 そうして返ってきたのが、ため息混じりのその一言。これでむくれるなって方が無理である。
「私たちとは違うのよ。あちらの方々はね」
 人命は何にも代え難い、そんな世界に生きている人間。
 そうだった。
 闇よりも陽の光の下がよく似合う子だった。

 がさごそ。紙を丸めて片手に持つ。
「んじゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「間違ってお嬢ちゃんまで殺さないようにね」
「しないって」

 まったく、何をやっているのか自分は。よりにもよって人命救助?
 これも計画のための行動なのに変わりはないけれど、

「さしずめお姫様救出の騎士って感じ?」

「バカ云ってないでさっさと行きなさい」

「はーいはいはい」

 さてさて、それでは。

「不肖エンヴィー、姫さんを助けにいってきまーす」


 いつかすべてを知ったとき、そのために助けられたことを知ったら、君はどんな顔をする?


■BACK■



......黒ッ!?(汗)
なんだろう、一応エンヴィーの最初物語になるのかも。出逢ったお話。
主人公さん側は、文中のとおり覚えてないです。日常のことで流してる。
つか、これ、恋愛感情じゃないな、絶対ないな。
面白い玩具見つけたって感じなのかもしれないな。うわ、投石されますか?
でも、なんとなく原作もそんな感じっぽく思っています。(更に投石されそうなコトを......)