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その理由 |
「聞いたぞー。おまえ、部下たちに堂々と云ったんだってな」 「何のことだ?」 「とぼけんな。大総統になりたい理由訊かれて、云ったんだろ?」 軍属のねえちゃんたちの制服を、ミニスカートに統一するだめとかなんとか。 にやにや笑う親友の声に、大佐は2、3度目をしばたかせる。 それから、やっと思い出したらしく、ぽん、とこぶしを手のひらに打ちつけた。 「ああ、そのことか……って、まさか本気にしたのか、ヒューズ?」 「なんだ、違うのか?」 おまえのことだから、思いっきり本音だと思ってたぜ。 逆に目を丸くした親友を見て、大佐はがくりと肩を落とす。 どいつもこいつも、人をどーいう目で見てるんだとかなんだとか、ぶつぶつ云っているが中佐はお構いなしである。 向かい合わせのソファから、ずずいと身を乗り出して、 「で、本当の所はどうなんだ?」 「何が」 「大総統になりたいっつー、本音だよ。本音」 軍事の全権握って、国家壊滅させるとかぬかしたらこの場で極刑だ。 「そんなバカな理由で誰が目指すか」 そう云って、大佐が笑う。 中佐ももともと本気でそう思っているわけではないので、一緒になって笑う。 ひとしきり、ふたりの笑い声が部屋を満たして―― 「で?」 それもおさまりかけた頃、やっぱり、中佐の問い。 しつこいな、と小さく苦笑して、大佐が口を開こうとしたとき。 コンコンコン。 小さく扉を叩く音。 「中佐、お茶持って来ました」 「お。か、よっしゃ入れ入れ」 「なんだもいたのか」 扉の向こうから聞こえた声に、ヒューズは相好を崩し、ロイはあからさまに背景に点描を飛ばす。 「失礼します……あ、ロイ兄さ、じゃない大佐」 来てたんですか? と、少し前に大佐の根回しと中佐のかっさらいと某准将によって、なしくずしに軍部へ正式配属された少女が目を丸くしながら、室内に入ってきた。 ちなみに根回しとかかっさらいとかは、本人には超内密と口裏は合わせてある。 あくまでも、彼女の能力を買ってのものだと(半ば以上それが事実だが)いうことには、なっているのだった。 ・中尉。 国家錬金術師であり、中央軍部所属。 見てのとおり、マスタング大佐とヒューズ中佐とは、私的な方での知り合いでもある。 「どうだ、軍部は。慣れたかい?」 湯気の立つコーヒーカップ片手に、大佐が問いかける。 すぐに仕事戻らないといけないんですけど、と、しぶるだったが、再三引き止められたおかげで、ふたりが向かい合っている傍らにちょんと立っている。 盆を胸に抱えたまま首を傾げて、はヒューズに視線を向けた。 「……いろいろ規律も多いですが、新しいコト覚えるのは楽しいから。なんとか」 「だな。実動隊の訓練も最近やってるが、そっちの素質もなかなかだぞ」 兄として大いに自慢に思え。 なんであんたが威張る。 それからしばらくは、他愛のない近況報告で。 話が一段落したとき、ふと、中佐がさっきの話を蒸し返す。 曰く、目標が大総統の理由は何なんだ、と。 「あ、それわたしも聞きました。ミニスカート目当てとか冗談云ったって」 「……さっきも思ったが、東部の話がなんで中央にまで流れてくるんだ」 『ホークアイ中尉とハボック少尉が』 「・・・あいつら・・・・・・」 大佐、頭を抱えて脱力するの図。 けれどすぐに復活するあたり、さすがと云おうかなんと云おうか。 ちらりとを横目で見て、口の端に笑みを乗せる。 「……そうだな。せっかくだから話しておこうか」 私が何故、大総統を目指そうと思ったのかを。 それは、まだが小さい頃だ。 (ここで中尉とヒューズ中佐が『は?』という顔になる) 父親が没してからは私が主に面倒を見ていたせいか、活発な子だった。 は昔からかわいかったから、たまには女の子らしい格好をしてほしかったんだが、何度云っても聞きやしない。 今だって、普段着は殆どズボンだろ? (ここで中尉、複雑な顔で頷く) そんなあるとき、はた、と気づいたんだよ。 「・・・考えてみたら、私は、のスカート姿なんて一度も見たことないんじゃないかってことに」 『ちょっと待て。』 ひきつった中尉と中佐のWツッコミをさらりと流し、大佐は窓の外に目を向けた。 組んだ足の上に軽く肘をつき、指を組んで顎を乗せたその体勢は、なかなか絵になるものだけれど。 ……いかんせん、言動がまったくマッチしてないんですが。 「が軍部に入った(引きずり込んだ)ときに、これはチャンスだと思った」 「……おいおいおいおい」 「今でこそズボンとスカートと選べる仕様になっているが、これをスカートに統一したらどうかと」 「……ちょっとちょっとちょっと」 「そう! 今度こそ問答無用でのスカート姿が拝めるじゃないか!!」 ダン!と音高く片足をテーブルに打ちつけて(行儀が悪いので良い子は真似するな)、握りこぶしも力強く、大佐は立ち上がった。 ソファに座ったまま中佐はのけぞり、に至ってはいつの間にか壁際まで避難している始末。 「が! 特定の一人だけ制服強制には無理がある! となれば軍属女性すべてを対象にして制服改善を図る以外に何が出来るというのか!!」 そしてそれが可能な地位は、軍事統轄たる大総統しかありえまい! 「・・・・・・中佐・・・辞表出したら受理してくれます?」 「受け付けたら俺が燃やされるから勘弁しろ」 熱く語るマスタング大佐に、もはやツッコむ気力も失せたふたりの背後には、木枯らしが吹いていたという。 後日、某衣料品店で今のうちにスカートはいて見せて阿呆なたくらみを阻止するべきかどうか本気で悩んでいる、朱金の錬金術師の姿が見られたそうだ。 それが実現されたかどうかは、当人たちのみぞ知る。 「いや、。ロングスカートもかわいいが、私としてはやはりこっちが」 「そんな超ミニ死んでも嫌。ていうか足出すの自体嫌。」 「別にタイツはいてても構わんが。それはそれで萌……」 スパーン! と響いた景気のいいツッコミ音に、窓辺の鳥たちが驚いて逃げ出したのが印象的な、ある午後のお話。 |
大佐が壊れてますごめんなさい。 しかも単行本3巻読んでないと判らないネタでなおごめんなさい。 当人がいたって真面目な分、余計にタチが悪いというお話でした(笑 でもこういうの、書いてて楽しいです...... ちなみに、軍属になってしばらくのコトです。中央にいるとき。 |