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桜に染まる世界
-エドワード・エルリック-


 薄紅色の花は、好き。だけど嫌い。
 満開になっていると、視界のすべてが淡い紅色。まるで夢のなかのよう。
 風が吹けば花びらが散り、それこそ空間が埋め尽くされて。

 ――握りしめる手のひらに、力をこめた。


「・・・・・・エド君?」

 むせるような甘い香り。
 世界を染め抜く薄紅の色。
 まるで夢のなかのよう。
 たしかにこの手に握っている、の手さえ例外ではなく。
 怪訝な感情をにじませて問う、の声さえ例外ではなく。

「兄さん、どうしたの?」

 同じように、不思議そうに問いかけるアルフォンスの姿さえ、今は薄紅に呑まれてまるで陽炎のように。
 だけど、こんなの莫迦げてる。
 ふたりはたしかに目の前にいて、一緒に歩いているはずなのだから。

 莫迦げてる。
 桜に連れていかれそうなんて、子供みたいに不安になったなんて。

「なんでも――」「ない、って云ったら嘘つきになるよ」

 するりとの手が抜かれ、はっとした。
 精魂こめた砂の城が、一瞬にして波にさらわれたような、そんな感覚。

 だけれど、すぐに感じる優しいぬくみ。
 頬に当たるくすぐったい漆黒の、流れるようなの髪と。
 肩から背中に回された、年上のはずなのに自分に比べるとずいぶん細いの腕。
 身体に触れる、整ってきたふくらみに、年頃の反応が正直に顔に出た。

 それ以上に視界を埋める薄紅が、きっと隠してくれたろうけど。

 背中に当たるの手が、手招きする動作を伝える。
「アル君も、ほら」
「え? 兄さん本当にどうしたの?」
 問いに、ふふ、とは笑い、
「エド君はね、ちょっとセンチメンタルになっちゃったんだよね」
 だから一緒にエド君が寂しくないようにしてあげよ?
「なっ、姉――!?」
「なあんだ、そうかあ」
 抗議しようとした声は、安心したアルフォンスのことばで遮られた。
 それだったらボクも判るな。この桜吹雪、ほんとうにすごいもんね。
 エドワードの手を片方握り、アルフォンスが空を――薄紅に包まれた、上を振り仰ぐ。

「……なんだよ、俺一人ガキみたいじゃないか」

 だけど。
 の腕に包まれて、アルフォンスの手に片手預けて。

 ――薄紅に、世界を覆われて。

 感じたのは、胸の中、切ないほどに溢れ出す安堵。

「だいじょうぶ」

 その声に誘われるように、空いた手をの背にまわす。
 こつん、と、額を肩に押し付けた。
 甘い薄紅の香に混じり、ふわり、のにおい。
 ・・・大好きなひとの、ぬくもりとにおいで安心するなんて、自分がひどく子供に思えた。

 だけど。

「だいじょうぶ」

 繰り返される、ことばに。
 分け与えてくれる、ぬくもりに。
 握りしめてくれる、弟の手のひらに。

 今だけ、寄りかかってみようと思った。


 不安なときは、傍にいて。
 不安なときは、傍にいる。
 どんなときも傍にいて。どんなときも傍にいるから。

    ……ずっといっしょにいてよ。

  薄紅の世界のなか――握りしめる手のひらに、抱きしめる腕に、力をこめた。



■BACK■



だーから、なんでこう......なんと云うか純愛と云うかさあ(笑
攻めさせてみたいよーな気もするんですけど、わたしの何かが邪魔をする。
エドはもう、こうなったら奥手道で走って行ってもらいましょーか。
その分押せ押せは大佐に頑張ってもらうということで(まてよ)
桜に世界が覆われる、というのは、想像してみるとひどく胸が詰まります。大好きです。