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桜に染まる世界
-エンヴィー-


 薄紅色の花は、好き。だけど嫌い。
 満開になっていると、視界のすべてが淡い紅色。まるで夢のなかのよう。
 風が吹けば花びらが散り、それこそ空間が埋め尽くされて。

 ――握りしめる手のひらに、力をこめた。



「エンヴィーさん・・・?」
「しー」

 散歩に出た処を見かけたのは、偶然。
 後をつけてみようと思ったのは、気まぐれ。
 ひとりでどんどん進んでいった先は、お気に入りらしい桜の木。その根元。
 身体を仰向けに横たえて、すっかり昼寝の体勢。

 薄紅が彼女に降り積もる。
 まるで、自分からを隠そうとしているみたいに。

「……気に入らないなあ」

 近づいた。手を伸ばした。その手をとった。

 眠りの淵から呼び戻されて、半覚醒らしい朱金の眼が、ぼんやりとエンヴィーを映し出す。
 知った顔であったことに安心したのか、ふわりと細めてさっきのことば。
 だからエンヴィーも微笑んで、人差し指を口元に。
 の手を握ったまま、こちらはうつ伏せに横たわる。

 ふたり分の黒髪が、薄紅に染まった地面にはらはらと広がった。

「・・・どうしてここに?」
「んー、姫さん見かけたから、追いかけてきた」
「またまた・・・」

 くすくす笑う、の声はひどく眠そう。
 引継ぎの件で徹夜でもしたんだろう。

「傍にいたら眠れない?」
「・・・ううん、好きです」
「――そ。」

 それが習慣になっているのは、鋼のおチビちゃんのせいか焔の大佐のせいか。
 たぶん、きっと両方だ。
 ざわりと、自分の深い部分が騒ぎ出す。
 けれど抑えこむ。
 ・・・あちらふたりは別として、今ここにいるは大事。
 理由? 人柱。プラスアルファ。

「エンヴィーさんも、一緒に昼寝します?」
「うーん」

 少し考える、までもない。
 どうせ今日は暇なのだ。だからの処に来たのだ。

「そーだね。寝よう寝よう」

 一緒に寝て、一緒に手を繋いでれば、この子を桜の花に隠されることもないだろう。

「うん。そしたら、おやすみなさい」
「おやすみー」

 すぐには眠りに落ちる。
 風の騒ぐ音に混じって聞こえる、規則的な寝息。
 よほどの徹夜か、それとも疲れが溜まってたのか。
 手は繋いだそのままで、上身を起こしてを見下ろした。

「――かーわいい」

 繋いでない手で頬杖ついて、にんまり笑ってひとりごと。
 けれど、その表情はすぐに変わる。形容するなら、それは悪戯を思いついた子供の顔。
 起こさないよう留意して、息が触れるくらいにまで近づいた。
 睫の数さえ、お互い数え合えそうなほど。

「・・・二回目もーらい。」

 ふたり分の黒い髪が、混ざって溶けて、一箇所に広がった。

  それもすぐに、舞い散る薄紅に覆い隠される。
  ――すべてが薄紅に覆われる。

   気づかないうちに、握りしめる手に力をこめていた。



■BACK■



エンヴィーがいちばんいい思いしてませんか(自問)
猫っかわいがり。っていうか積極的。あああすいませんすいません夢ですから。
でも、計画実行のときにはさっくりやってくれるんでしょうねえ。
ていうかこの人、そもそも 『何』なんでしょーか。
名前、七つの大罪のアレからかな? でもって錬金術の変装は性別も変わるのか...?