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桜に染まる世界
-ロイ・マスタング-


 薄紅色の花は、好き。だけど嫌い。
 満開になっていると、視界のすべてが淡い紅色。まるで夢のなかのよう。
 風が吹けば花びらが散り、それこそ空間が埋め尽くされて。

 ――握りしめる手のひらに、力をこめた。



「ロイ兄さん?」

 花見に行こうと云い出したのは、果たして自分だったかだったか。
 満開の桜の花にすっかり心奪われて、近い記憶さえも霞のように。
 隣を歩いていたは、不意に手を握ったロイを不思議そうに見上げていた。

 小さな手。
 ほら、自分の手ですっぽりと包み込める。

 小さな子。
 兄さんと慕ってくれる、ご近所の女の子。
 

「どうしたの?」

 黙って見下ろしていたままだったから、返事がないのが不安になったんだろう。
 朱金の双眸をかすかに揺らし、が身体ごとロイに向き直る。
 空いた片方の手で、彼女の手を握るロイの腕を(正確には袖を)引っ張って。

 安心させるように頭を撫でてやると、ふにゃっと笑って、ますますしがみつく。逆効果。

 頼みが、ひとつ――
 ある意味先輩でもある、彼女の父親のことばが蘇る。
 いつかあの子がすべてを知るときが来る。
 いつか誰かが、この自分が禁忌を犯したことを知る。
 君に、こんなことを頼むのは手前勝手かもしれない、だがを恨まないでほしい。

 ――見守ってほしい。あの子が笑って歩いていけるように――

「ねえ、兄さん」
「・・・うん?」
「国家錬金術師の試験、もうすぐなんだ」
「そうだな」
「――わたし、頑張るから。だから」、

「ああ」にこり、微笑んで。
 が云う前に、それを口にする。

「見ていてやるから、頑張るんだぞ」

「――うん!」

 元気よく頷いたの目が、ロイの背中ごしに何かを見つけたらしい。

 するり、

 手の中から、の手がすり抜ける。
 はっとした硬直に襲われたロイの横を、軽快にが駆け抜けた。

「――!」

 感じた焦燥。

「ロイ兄さん、ほら!」

 振り返り、走り出そうとした刹那。
 桜の木の根元、降り積もった花びらを両手にすくったが立ち上がって。
 両手を広げた。
 包み込まれていた桜の花が、一斉に舞い上がる。
 強い風が吹く。

 ――薄紅に、世界すべてが覆われる。

!?」

 名を呼んだ。今度こそ走り出した。
 舞い散る薄紅の合間、翳り見えたその子の姿。

 辿り着く前に腕を伸ばし、触れたと同時に引き寄せる。

「・・・ロイ兄さん?」

 腕のなかに閉じ込めた子は、小さく身じろぎしながらロイの名を呼ぶ。
 答えずにそのままいると、やがて、大人しく身体を預けてきた。

「――」

 見守ってやってほしい。
 繰り返し、思い出すことば。

  ――云われずとも。
     繰り返し、応じることば。

    誓いはすでに、この胸に。
    この焦燥さえも、糧にする。

 舞い散る薄紅のなか――抱きしめる腕に、力をこめた。



■BACK■



一途だ...(笑)っていうか、大佐の出身てどこでしょうね?
勝手に中央にしてますが、もし東部から一歩も出たコトないなんて云われたら、
どうやってこじつけようか(こら)
うちの大佐にしてはめずらしく、純愛風味。紫の上計画(違ッ
でも、大佐って相手をすんごく可愛がりそうな気がするのはわたしだけ?