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不本意な似た者同士 |
それは、そう遠くない過去の記憶。 誰もが持っていたはずの、誰もが忘れてしまった記憶。 ――緑溢れる世界。風の吹きぬける蒼穹。 それは、世界の雛型であるジェットだけが、持っているはずの記憶。 目的地に向かう途中、それぞれの場所でギャロウズとクライヴを拾って、ヴァージニアチームは再びフルメンバー揃ったことになる。 今は、それプラス一名様が追加されているが。 その一名様と、メンバーのひとりがこもっている部屋を見て、ヴァージニアたちは顔を見合わせた。 「……何してんだろーなぁ、あいつら」 にやにやしつつギャロウズが云えば、 「少なくとも、貴方の考えているようなことではないと思いますが」 と、クライヴが微笑んで告げる。 最後にヴァージニアが、 「それにしても、試してみたいことってなんなのかしらね?」 そう。 ここ、サウスファームで朝食を終えた直後だった。 追加一名様ことが、メンバーのひとりことジェットを、ちょっと試したいことがあるからと部屋に連れ込んだのは。 取り残された形になったヴァージニアたちは、こうして、出てくるのを待っているわけだ。 気分はまるで、鶴の恩返しの狩人状態。 そろそろ出発しないと、日のあるうちに目的地に着けないのだが―― そのこともあって、いい加減、3人がじりじりしだしたころ。 「極限平和ボケかアンタはッ!!」 「それはわたしのセリフだぁっ! なんでそんな殺伐としたもんしか思いつかないのよッ!!」 「花なんぞ出してねえで、いっそベリーでも出しやがれ! ブラックマーケットに売りゃいい金になんだからよッ!!」 「食虫植物引っ張り出してきた兄さんに云われたくなんかないわー!!」 「「「・・・・・・」」」 がたん。 ばたばたばた、ばたん! 一斉に立ち上がり、ヴァージニアたちは、たちの怒鳴りあっている部屋の扉を蹴り開けた。 ――とたん。 むわっとくるほどの、濃い、濃い緑のにおい。 知らないはずの、だけど知っていたはずの、におい。 そのなかに座り込んで、お互いに悪口雑言の限りを尽くしていたふたりは、ヴァージニアたちの侵入に、バツの悪い顔になって彼らを見上げた。 夜明けを思わせる燈金色の眼と、夕暮れを映したような紫水晶の瞳。 見事な対比の色が並んでいるのを見るとき、ヴァージニアたちはいつも息を飲む。 朝焼けと夕暮れ。 金色と薄紫。 が、今回ばかりはそれも、現在目の前に広がっている光景に対する衝撃を薄らがせる役には立たなかったようである。 部屋中に充満した緑のにおいの源――見たことのあるものから、初めて目にするものまで。 とにかく植物で覆い尽くされた、部屋のなかを、まじまじと見渡して。 「……とりあえず」 「説明してくれるわよね?」 ヴァージニアとクライヴが、同時ににこりと微笑んだ。 その黒いオーラを、神官の素晴らしい感応力でもって察したギャロウズが、ぴきーんと固まった。 それ以上に、その微笑みを真正面から見る羽目になったとジェットは、がっきーんと音を立てて固まったのである。 「つまり、この間、映像の花が現実に出てきたから……今度もそれが出来るかなあ、と思って」 でもそれだけじゃなんだから、それぞれ植物を想像して出せないかなって。 手の中の花をいじりつつ、悪戯を見つかったこどものような顔で、ぼそぼそ、は云う。 で、食虫植物の息の根を止めていたジェットが振り返り、 「したら、こんな変なモンばっかりが出てきたってわけだ」 「……いや、その食虫植物ってのに勝る変なのはないと思うぜ……」 先刻手を出して、食われそうになっていたギャロウズがそうつぶやいた。 ちょっぴり疲れた顔なのは、やはり、食われかけたショックのせいだろうか。 そうですねぇ、と、クライヴが頷く。 「の出した花なんか、きれいなものじゃないですか。女性には売れるんじゃないですかねえ」 「ふざけんな。そんな食えもしねえもん」 「食虫植物だって食べられないでしょ……」 仏頂面でツッコミ入れたジェットにヴァージニアがツッコミ返し、ジェットがますます不機嫌な表情になる。 が、そこに、黙ってはいれなかったのか、ずずいとが身を乗り出した。 傍に転がっていたアガートラームに手を伸ばし、 「何よ! そんなこと云うんなら、もっかい出してやるわよわたし一人で!」 「なッ、おい、かってに人のアーム……!」 させてなるものかとジェットが手を伸ばす。 ――ふたりの指が、ほぼ同時にアガートラームに触れた、その瞬間。 ざあぁ、と、一瞬にして、宿の一室であったはずの光景が塗り替えられる。 蒼穹。 風。 草原。 視界を埋める白い花びら。 それを見るのは初めてだった。 ヴァージニアたちは硬直し、知っていたはずの知らないその光景をただ双眸に映したまま硬直する。 知らない。懐かしい。判らない。知っていた。 「・・・これが・・・」 滅多には動揺を見せないクライヴさえも、それ以上はことばにならないようだった。 が。 「おい、ベリー出せベリー!!」 「そんな急に【思い出】せるわけないでしょー!?」 「あーッ、たくアンタ役に立たねぇな!!」 「ていうか見本ちょうだいよ見本ッ!」 「急に云われて出せるかよッ!!」 光景の壮麗さなど台無しにするジェットとの怒鳴りあいに。 ガガガガガッ! ――ヴァージニアが5連ガトリングをかましたのは、まあ、当然の処置かもしれなかった。 ちなみに、そこは当然宿屋の一室である。 床の修理代として、一行の財布がますます軽くなったのも、まあ、当然かもしれなかった。 罰である。これは罰である。 自分たちに原因があるのだから、当然、それはちゃんと受けなくては罰にならない。 だからしょうがない。 しょうがないのだけど―― 「……間が持たない……」 「本人目の前にして云うか、アンタは」 荒野の風吹きすさぶなか、ぽつりとつぶやいたに、やっぱし仏頂面のジェットのツッコミが入った。 だが、さすがにそれだけでは難だと思ったのだろう。 「あとちょいで着く。もう少し我慢しろ」 そう云って、顎で前方をしゃくった。 その先には渓谷がある。 馬で全力疾走してジャンプさせれば、ギリギリ対岸に届くだろう幅の、大地の傷跡。 もし足を踏み外したら、生きては帰れない深さの。 後ろに座って手綱を操るジェットのことばに、は身体を固くしたまま頷いた。 それにしたって、これは罰としちゃあんまりじゃないのかと心で涙しながら。 時間は少し遡る。 サウスファームの宿の床修理代を払って、追い出された直後だ。 リーダー命令、と称して、ヴァージニアがジェットとに騒動の罰として与えたそれは。 【ふたりで仲良く目的地まで行って帰ってくる】 ……という、実に微妙複雑なもので。 だけど反論しようとしたジェットに、目にも止まらぬ速さで銃口を突きつけたヴァージニアに、反対できる人間はいなかったのである。 そんなわけで、馬に乗れないはジェットのそれに乗せてもらうという【仲良し】っぷりを発揮しつつ、ここまでやってきたのだ。 ちなみにヴァージニアたちは、ジョリーロジャーでふたりを待つことになっていた。 「つか、リーダー。あれで余計に仲悪くなって帰ってきたらどうすんだ?」 とりあえず宿に入った直後の集合時、ギャロウズが問うて。 「いえいえ、きっと仲良くなって帰ってきますよ」 と、クライヴが反論した。 そうしてリーダー命令を行使したヴァージニアは当然、クライヴの意見に賛成なわけだ。 「だいじょうぶよ」 ただそれだけ云って、にこにこ笑う。 だってあのふたり、きっと似た者同士だもの―― 「まあ・・・そっくりですね・・・」 「「なにが」」 目的地に辿り着いた直後、目の前の少女からの第一声に、ジェットとは揃って答え。 顔を見合わせて、そっぽを向いた。 それを見て、少女はくすくすと笑う。 最初にヴァージニアたちと逢った頃に比べれば、随分と表情も柔らかくなっている。 ――花園の少女。 本名は、彼らも知らない。 ただ、この世界に在って花を育てるという、半ば絶望にも似たことを根気よく諦めずに行っている不思議な少女だった。 ある事件で知り合って以来、彼女はお礼としてベリーを育て、それを提供してくれている。 「こんな奴とそっくりなもんか。渓谷飛び越えるときにギャーギャー煩かったような奴」 「兄さんがギリギリなジャンプするからじゃないか、それ。馬の片足落ちかけてたし」 「荷物が増えたせいで重かったんだよッ」 「何さ荷物って! 云っとくけど、絶対兄さんより軽いんだからね!?」 「そういう問題じゃねえだろ!! 人一人分も増えりゃ、馬だって勘が狂うんだよッ!」 「最初から素直にそう云えばいいじゃない!」 ・・・くすくす。 「「・・・」」 やっぱり始まった怒鳴り合い。 花園の少女はてっきり恐がるかと思われたけれど、意に反して笑う。楽しそうに。 「やっぱり、よく似てらっしゃいます」 「「どこが!?」」 さっきと同じようなやりとり。 少女は、それでまたさらに笑う。 それから、ふと。 笑みをおさめて、に向き直った。 「あなたも、優しい人ですね」 「へ?」 「コイツ、俺が優しいとかぬかしやがるんだよ」 横からぼそりとジェットが云う。 「・・・兄さんのどこが優しいの」 「それにだけは同意見だ」 不本意そうに頷いて、ジェットはふと、を見た。 「……なんでアンタ、俺を『兄さん』とか呼んでんだ?」 「今ごろ気づいたの? 鈍ッ」 「テメ……!」 「銀髪のお兄さんだから、略して兄さん。問題ある?」 「大有りだッ!! 名前呼べ名前!!」 「兄さんだってわたしの名前呼ばないじゃないのさ! どうこう云われる筋合いはないぞ!」 「――ッ、呼びゃいいんだろ呼びゃ!! !」 「よし、ジェット」 ・・・くすくすくす。 花園の少女の笑い声に、また、ふたりして我に返る。 だめだこりゃ。 とにかく、と気を取り直し、ここまでやってきた事情をざっと説明した。 アガートラームのこと、ジェット自身のこと、それから、のこと。 どうもこの少女は、ジェットがファルガイアとなんらかの関係があることを見抜いていたっぽい。 だから、今回も何か得られないかと思っていたのだけれど。 話を聞き終えたあと、アドバイスを求められて、しばらく何か考えていた少女は、ぽつりと云ったのだ。 「さんとジェットさんは、似てる・・・と思います」 「「だからどこが」」 「いえ。見た目とか性格とか、そういうことではなくて・・・」 片手を伸ばしてジェットの左手。 もう片方を伸ばしての右手。 それぞれに触れ、少女は少し首を傾げる。 「同じ、ではないです……さんは、基本的にヴァージニアさんたちと同じ感じなんです。でも、ジェットさんとも似ている」 それを感じるのは、この右腕。 「・・・・・・」 そのことばを聞いて、ふと、が居心地悪そうに身じろぎした。 ごめんなさい、と断って、少女の手を放してもらい、自分の左手で右腕を抱え込む。 「えと……」 ちらりとジェットを見て、ちらりと右腕を見て。 そうして、最後に少女に視線を戻して。 「・・・これ、義手なんだけど・・・もしかして、それと関係ある・・・?」 「義肢!? それがッ!?」 さすがにそれには驚いたのか、ジェットがばっと振り返る。 「……うん。よく見てよ、ここ。繋ぎ目があるでしょ?」 そう云って、が上着の留め具に手をかける。 はらりと上着を落とし、ついで、中にきていたシャツもはだけ。 袖なしの肌着一枚になって、は再度、右腕を指し示した。 肩口のあたり、一筋、うっすらと走る線。 そこを境に、微妙に肌の色も違う。 それがのことばを証明していた。 だが、今の世に、生体と同じ働きをするほど高性能な義肢はない。 外見だって、無骨なロボットのようなものだ。 そんな技術、誰も持っていない。 持っていたと、するのなら。 「……七人委員会……」 「しちにんいいんかい?」 ぼそりとつぶやいたジェットのことばを聞きとめて、が怪訝な顔になる。 が、結局その問いに、この場で答えはもらえなかった。 「――あンのオッサン……! まだ何か隠してやがったなッ!!?」 がばあ、と、立ち上がって叫んだジェットの剣幕に、花園の少女ともども驚いて、数メートル後ずさったからである。 →NEXTSTAGE・・・レイライン観測所orユグドラシル Go? 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やっと話が進みました...なんだかやけにコミカルな人たちだ(笑) このままジェットと二人旅っていうのも楽しそうだなぁ、と思いつつ。 でもヴァージニアたちも出来れば出したいなあ、と思いつつ。 なつかしのあの場所に、いざレッツゴーです。鬼が出るか蛇が出るか。 |