- たしかにね、と、イリヤスフィールが頷いた。 わたしの心まで見透かすようにしてた赤い瞳は、今は、ただ周囲の街並みやわたしたちを映し出してるだけ。 「ねえ、バーサーカー。どうしようか?」 くるりと回転して、イリヤスフィールは自らの従える狂戦士に話しかけた。 けれど狂戦士は静かに佇んでるだけ。――その様相からは、とても、彼が狂える者だなんて思えない。イリヤスフィールを見つめる双眸にも、優しい何かを感じてしまう。 「――――」 黙ったままのバーサーカーに、けど、イリヤスフィールは不機嫌になった様子もない。 人差し指を唇に当て、銀色の髪を揺らして、首を左右にメトロノーム。 「うん、そうね。今夜はおしまい」 「――――イリヤスフィール」 ほ、と。 安堵の息をつくのには、だけど少し早かった。 「また今度ね、シロウ。。でもちょっと残念。シロウがマスターじゃなかったら、わたしのサーヴァントにしてあげたのにな」 「……は?」 「いいもの見せてくれてありがと、。お礼に、殺すときにはあんまり痛くないようにしてあげるわ」 「……は?」 “は?”ひとつめは士郎でふたつめがわたし。 声にこそ出してないものの、疑問符は衛宮のきょうだいだけじゃなく、周囲のひとたちにも伝播してる。 なんでわたしたちがイリヤスフィールのサーヴァント候補なんだとか。 それって霊体しかなれないんじゃないのかとか。 いいものってのは彼女に見えた切嗣の泣き顔なのかとか。 結局殺すことに変わりはないんですかとか。 ――諸々のそれを、勘付いてないわけでもないだろうに、イリヤスフィールは差し伸べられたバーサーカーの腕に身体を預けた。 ちっちゃな雪の精は、ふわりと巨人の肩に舞い下りる。 かわいらしい仕草で手を振りながら、にっこりと微笑んで曰く、 「また逢いましょ、マスターとサーヴァントの皆さん。今度はちゃんと決着をつけようね?」 そう告げたあと、全員を見渡してた彼女の視線は、まっすぐにわたしへと固定された。 笑みは消えている。 口元は一文字に結ばれている。 人形めいた無表情、ただただ“エミヤ”を映し出す赤いまなざし。 観察されているようで、だけど、不思議と不快感は感じなかった。 「――――」 聞き逃すな、と、その表情と口調が、わたしに命令する。 「が本当にそうなら、私、きっとあなたを殺すわ」 ……殺さなくちゃ、いけないから。 それは、わたしの意志も彼女の意志も置き去りにして決まってた、それこそ運命の宣託をするような、そんな荘厳なことばだった。 |