「」
「……え?」
目を覚ますと、月明かりが窓から差し込んでいた。
白い月。銀色の光。
ぽけ、と。それを、ひとしきり眺める。
眺めて――うん、と、ひとつ頷いた。
「そうか。あたし、だ」
「どうかしたのか?」
今の動作やら独り言やらで、ルヴァイドが起きたらしい。気がかりそうな表情をこちらに向けているのが、月明かりでよく判った。
反対隣のイオスも目を覚ましているらしく、心配そうな視線を感じる。
さすが軍人、反応が素晴らしい。
いえ、と首を振って、それからどちらにとなく訊いた。
「あたしの名前、呼びました?」
いいや、とルヴァイドが答え、クスクス、イオスが笑った。
「呼んだかもしれない」
君の夢を見たから。そう、彼はつづける。
「へー、どんな?」
「僕たちが出逢ったばかりの頃の夢だよ」
「そういった夢ならば、俺も見たな」
かすかに喉を鳴らして、ルヴァイドも笑う。
「……また、あたしが脳天直撃した夢とか云いませんよね……?」
「否定はしないでおこう」
「うわー、ルヴァイド様が意地悪するー」
イオスに泣きついたら、ますます笑う声がして、ぎゅぅっと彼の腕に包まれた。
そうなると自然、再びベッドに寝転がることになる。
小さくうめいたその上から、大きな手のひらが頭を撫でた。
「――まだ目を覚ますには早い時間だ。寝ておけ」
明日は、息をつく間もないだろうからな。
「はぁい」
「はい」
部下ふたりのお返事のあと、ルヴァイドも、微笑を残したまま、再びベッドに身をゆだねた。
おやすみなさい。良い夢を。
――どこからか、小さな小さな声がした。
ルヴァイドが見たのは出逢いの夢。
イオスが見たのも出逢いの夢。
では、彼女が見たのは何の夢? ――彼女が見たのも出逢いの夢。
ただそれは、遠く遠く時の彼方、忘れ去られた過去の果て、歌のはじまり。遠い彼らの、出逢いの夢。
そして彼女は夢を見る。
長い長い、夢を見る。
起きたときにはもうきっと、零れて覚えてはいないだろう、遠い昔のゆめをみた――