BACK


lll 始まりのうた 0 lll
























「……え?」

 目を覚ますと、月明かりが窓から差し込んでいた。
 白い月。銀色の光。

 ぽけ、と。それを、ひとしきり眺める。
 眺めて――うん、と、ひとつ頷いた。
「そうか。あたし、だ」
「どうかしたのか?」
 今の動作やら独り言やらで、ルヴァイドが起きたらしい。気がかりそうな表情をこちらに向けているのが、月明かりでよく判った。
 反対隣のイオスも目を覚ましているらしく、心配そうな視線を感じる。
 さすが軍人、反応が素晴らしい。
 いえ、と首を振って、それからどちらにとなく訊いた。
「あたしの名前、呼びました?」
 いいや、とルヴァイドが答え、クスクス、イオスが笑った。
「呼んだかもしれない」
 君の夢を見たから。そう、彼はつづける。
「へー、どんな?」
「僕たちが出逢ったばかりの頃の夢だよ」
「そういった夢ならば、俺も見たな」
 かすかに喉を鳴らして、ルヴァイドも笑う。
「……また、あたしが脳天直撃した夢とか云いませんよね……?」
「否定はしないでおこう」
「うわー、ルヴァイド様が意地悪するー」
 イオスに泣きついたら、ますます笑う声がして、ぎゅぅっと彼の腕に包まれた。
 そうなると自然、再びベッドに寝転がることになる。
 小さくうめいたその上から、大きな手のひらが頭を撫でた。
「――まだ目を覚ますには早い時間だ。寝ておけ」
 明日は、息をつく間もないだろうからな。
「はぁい」
「はい」
 部下ふたりのお返事のあと、ルヴァイドも、微笑を残したまま、再びベッドに身をゆだねた。


 おやすみなさい。良い夢を。

 ――どこからか、小さな小さな声がした。





 ルヴァイドが見たのは出逢いの夢。
 イオスが見たのも出逢いの夢。

 では、彼女が見たのは何の夢? ――彼女が見たのも出逢いの夢。


 ただそれは、遠く遠く時の彼方、忘れ去られた過去の果て、歌のはじまり。遠い彼らの、出逢いの夢。

 そして彼女は夢を見る。
 長い長い、夢を見る。


 起きたときにはもうきっと、零れて覚えてはいないだろう、遠い昔のゆめをみた――

 //

■BACK■