去り行く海賊カイル一家とその客分の背を見送って、彼らの姿が消えたのを確認して、少女もくるりと踵を返す。
すたすたすた、と、足早に歩く先は、教えられた酒場のあるほうではなくて、人気のあまりない桟橋のほう。
すれ違う人々の怪訝な視線を受け流し、歩くこと数十秒。
桟橋の先に立って、少女はまず、空を仰いだ。
雲がひとつふたつ浮いているだけの、爽やかなお天気。
次に、海を見た。
波が、寄せては引き、引いては寄せる、穏やかな海。
最後に、真正面を見た。
空と海の境目、水平線がゆるく弧を描く、蒼と藍の境。
――すうっ、と、息を吸い込んだ。
急激に大量の酸素を送り込まれた肺は、当然膨張する。
心なし後ろに沿った身体を支え、少女は、それまでぺったり張りつけていた笑顔をここでかなぐり捨てた。
ギン! と、養い親譲りの眼光が、世界を睨みつけた。
ガマンしてたのだ。
ずっとずっとガマンしてたのだ。
この衝動だけは、絶対に、一度は発散したかったのだ。
ヤードやカイル一家の人々は、本当に親切にしてくれたから、そんなところ見せられなかったけど。
だから、自分でも不気味なくらい、この数日、にこにこにこにこしてたけど。
……ずっと。ガマンしてたのだ。
「青い海の……ついでに白い雲の……でもってリィンバウムの……」
ぎちぎち、と、骨のきしむ音をたてて、こぶしを握りしめて。
溜めてた息を――
「超ッ絶! 極大ッ! ッばかやろおおぉおぉぉ――――――ッ!!」
……吐き出した。
上空で賑やかに鳴いていたウミネコが、驚いて逃げていく。
近くの樽の上で惰眠を貪っていた猫が、やっぱりすたこら逃げていく。
あまつさえ、そこらにいた地虫までもが、わらわらとその場から姿を消した。
そして。
偶然その場に通りかかった人は、顔を真っ赤にして、ぜぇはぁと荒い息を繰り返す少女の姿を目撃し、目を丸くしていた。
そんな周囲の騒動など知ったことではなく、は、ひとしきり呼吸を繰り返すと、そのままぺたりと地面に座り込む。
叫びの名残か別の理由か、目じりに浮かんだ涙をぬぐい、切ない表情で空を見上げる。
たった今八つ当たりされた空は、それでも、変わらぬ青さでそこに在った。
「……ルヴァイドさま」
ぐす、と、鼻をならす。
「イオス……」
ぬぐったはずの涙が一筋、頬を伝った。
「バルレル……みんなぁ……」
ぽた、と、のすぐ下の地面に、水滴が落ちた。
俯いた拍子に、真っ赤な髪が、はらはらと流れる。
青い、青い空の下――青い、青い海の傍で。
ただひたすら、は途方に暮れる。
「……どうしよう……」
どうにかこうにか、狭間からリィンバウム側に出てこれたはいいけれど。
「これから、どうすればいいんだろう……?」
どうやれば、帰ることが出来るんだろう――?
・・・こつん、と、ひとつ、足音がした。
「……どうかしたのかい?」