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突撃!マスタング家の晩御飯 前編 |
鋼の錬金術師といえば、まず有名なのは、12歳という若さで国家錬金術師の資格をとったこと。 錬金術に年は関係ないというけれど、それにしたって異例のことだ。 もっとも、だって14歳で同じ年度に資格をとったのだからたいしたものなのだけど。 自分より2歳下の――当時12歳のエドワード・エルリックが同時期に資格取得したので、の方はかすんでしまったのだ。 ただし、本人は別に気にしてもいない。 むしろ騒がれなくってうれしいなあ、と思ったのが本音だったりする。 しかもその記録を樹立したのが幼馴染みの男の子で。とても誇らしくて自慢げな気持ちになったのが、本当だったりする。 そのことを、マスタング大佐は知っている。 何せ総督府で再会した当日、あれほど嬉しそうだったは他に覚えがないからだ。 ついでに今日の昼間再会したとき、あれ以上に嬉しそうなも、久方に見た気がしたからだ。 ゆえに。 「鋼の。宿代が惜しいならうちに泊まりにくるかい?」 と、それはそれは嫌〜な顔でそう云った。 最初はきょとん。次にまん丸。最後には何を企んでやがるこいつ的に。 「・・・・・・は?」 表情を変化させ、鋼の錬金術師ことエドワード・エルリックの反応は最終的にそれのみに落ち着いた。 ショウ・タッカーの家を訪れた一日目のことだ。 後半はタッカーの娘であるニーナとアレキサンダーと『息抜き』してしまったため、翌日も訪ねる約束をとりつけたエルリック兄弟が、お迎えの車でもって東方司令部に戻ってきた直後。 ちょうど勤務を終えて帰宅するという大佐と遭遇し、イーストシティお勧めの宿など訪ねたら、そんな返事が返ってきたのである。 「わあ、いいんですか!? 兄さん、是非泊めてもらおうよ!」 手放しで大喜びする弟を、けれど兄は素早く制する。 「いや待て、アル。大佐のことだ、ここで借りをつくったら、後でどんな条件持ち出されるか判ったもんじゃないぞ!」 「・・・君たちは私をどういう目で見ているんだね・・・」 わざとらしく額に手を当てて遺憾の意を示す大佐に、けれどエドワードの視線は冷たい。 はあ、と、これまたでっかいため息をついて、大佐は両手を広げた。 「貸し借りはなしだ。うちの姫さんが、せっかくだからふたりを招こうって騒いでたんでね」 「・・・お姫さんって・・・」 エドワードの知識のなかで、大佐が『姫』呼ばわりするような人間はひとりしかいない。 しかもそれは、つい今日の昼間再会して、話をしたばかりの。 「姉?」 「そう。うちの」 うちのうちの、って強調しなくてもいーだろーが、とエドワードが思ったが、とにかく、彼は瞬時に頭のなかで現在の所持金を計算しはじめた。 れっきとした国家錬金術師なのだから、研究費だとかなんだとかで支給されている金銭はけっして少なくない。 少なくはないが―― 自分たちに必要な、たとえば研究等以外での出費は極力抑えたいのもまた事実。 しかも、今回宿を提供してくれるに当たって貸し借りはなし。 おまけにがいる。 が・・・ そこまでを考えたエドワードは、ふと大佐を振り返って、 「・・・てかなんで姉があんたんちにいるんだよ」 至極当然のその疑問に、大佐は勝ち誇ったよーな笑みを浮かべてみせた。 「も東部に来たばかりだからね。適当なところが見つかるまではってことさ」 「またなんか裏工作したんじゃないだろーな」 「なんでの住まいまで工作せねばならないか。同じ勤務場所なのに」 もっとも、おかげで予想してた以上にと一緒にいる時間が増えそうだが。 やけに楽しそうなマスタング大佐と対象的に、仏頂面がひどくなっていくエドワード。 どうしたものかとおたおたしているアルフォンス。 異様な空気の漂う東方司令部のその一角を、そのときちょうど通りかかった人間は正に不運だったと云う他ない。 「・・・!」 じとーっと大佐を睨みつけていたエドワードだったが、ふと。 何か思いついたらしく、それまで以上に勢いづいて大佐に迫った。 「あんたまさか同じ屋根の下だからって姉に何かしたりしようとか企んでないだろうな!?」 「・・・つくづく・・・君は私をどーいう目で見てるんだ」 お姫様は大切にするもんだろ? 答えになってない答えを返し、大佐は駐車場の方向へ歩き出す。 くるりとエルリック兄弟を振り返り、自宅へくるのかこないのか改めて尋ねた。 「で、どうするんだい? のお招きを受けるのか受けないのか?」 「・・・・・・行く。」 「・・・兄さん・・・」 大佐の私有物だという車は、たぶん襲撃に備えてのことだろう、相当に頑丈なつくりだった。 運転手は大佐本人。 まあ自宅に帰るのだから、部下に運転させるわけにもいくまいと笑っていたが、この人ならやりかねないとエルリック兄弟が思ったかどうかはさておいて。 車に揺られることしばらく、東方司令部からさほど離れていない場所にロイの住まいはあった。 「には先に帰ってもらったんだ。今日はこっちに来たばかりだからね」 腕によりをかけて食事の用意をすると云っていたから、楽しみにしててくれ。 にこにこと平然と話す大佐。 「・・・でも」 ふと疑問を感じたアルフォンスは、知らずつぶやいていた。 「いくらなんでも姉さんだって年頃なんだから、男の人と一緒に住むってことに何も抵抗なかったのかなあ・・・」 「それが信頼ってもんだよ、アルフォンス君」 「騙されてるぞ、姉」 っつーか姉も姉だ、なんだってよりによって大佐んちなんかに居候するんだよ。ハボック少尉ってのもアレだけどホークアイ中尉だっているじゃねーかよ。 まあそのへんは上官特権。 待てや腐れ大佐。 エドワードに軽く肘鉄をお見舞いして、大佐は車のシートにかけておいたコートを取り出す。 羽織るでもなく腕にかけて、苦笑した。 「第一、鋼の。がそんなこと気にするかどうかくらい、君たちが一番よく判ってるだろうに」 「・・・まあな・・・」 「たしかに」 大佐のことばに、エルリック兄弟は揃って頷く。 は、ことこういう問題に関してはとにかく鈍い。いや、鈍いというか意識していない。 恋愛小説を手間隙に読んだりはするし、そーいう映画も好きなはずなんだが。 それが自分のコトになると、どこまでもどこまでもどこまでも(以下省略)なのである。 頑張ってる自分がたまに空しくなるほどだ。 ・・・だけど。 それでも。 そんなと一緒にいるのが、自分たちにはとても心地好くて。安心出来て。 今の関係もこれで結構好きだったりするものだから・・・ 処置なし、なのかもしれない。 何を今さら、と、お互いツッコめそうだが。 ちらりと大佐を見上げたエドワードの視線の先で、同じように大佐もこちらを見下ろしていた。 たぶん同じようなことを考えていたのをなんとなく察したのか、まず、大佐が少しだけ苦笑を笑みに変える。 それを見て、エドワードも軽く笑う。 「つかさー、ロリコンとシスコンはやめろ。ってか姉に手ェ出すな」 「・・・もう一度黒焦げにされたいようだな、鋼の」 必殺効果・ベタフラッシュ炸裂。 「いらっしゃい!! と、おかえりなさい!」 一触即発の錬金術師ふたりを、アルフォンスが引きずって玄関の前に辿り着き、ロイがドアを開けたと同時。 満面の笑顔のが、エプロンを外しながらやってきて出迎えた。 「新婚さんみたいだな、」 にこにこ笑顔で云うロイに、べしっとエプロンが叩きつけられる。 「寝言は寝て云ってね、ロイ兄さん」 「なんだ、寝言の聞ける関係になりたいのか? 俺はいつでも歓――」 ごすッ 右手に持っていたおたまが額に直撃。 ほとんどどつき漫才のノリに、さしものエルリック兄弟も呆気にとられるばかりであった。 うずくまっている大佐殿を尻目に、がくるりとふたりに向き直る。 「改めて。いらっしゃい、エド君にアル君」 生体の練成を研究しているって錬金術師さんには逢えた? 思い出したように付け加えられた一言に、エドワードとアルフォンスは揃って頷いた。 「おかげさまで。資料を見せてもらえることになったよ」 「うん、良かったね」 胸に手を当てて、はにこにこと笑っている。 「そうそう。感謝したまえよ」 「・・・なんで大佐に」 じろりとエドワードが視線を向けた先には、いつの間にやらおたまの衝撃から立ち直ったらしいロイ・マスタングの姿があった。 いつの間にやらもなにも、エプロンやおたまで撃沈される人間などいるまいが。 いや、当たり所が悪ければあるいは。 とりあえずそんなことどうでもいいけど。 「なんでって・・・タッカー氏を紹介したのは私だろう」 ぽんぽん、と、エプロンとおたまを投げつけた少女の頭をたたきながら、そんなことをのたまってみせる。 「・・・絶対ヤだ」 っつかよけい殺意がわいたぜ。 べしっと、の頭から大佐の手を叩き落として、しかめっ面のエドワードが云う。 その横で、小首を傾げるアルフォンス。 「でも姉さんは、タッカーさんのこと知らなかったの? 同じ国家錬金術師なのに」 うん、と、頷く。 「エド君みたいに活躍してない限り、国家錬金術師だからって有名なわけじゃないんだよ」 二つ名ばかりが先立って、本人の顔とか個人情報とか、住みかとかは知らない人のほうが多いんじゃないかな? 頬に手のひらを当てて、思い出しつつ云うのことばには、たしかに同意できる部分がある。 実際紹介してくれたマスタング大佐だって、そらで覚えていたわけではなくて名簿で探し出していたし。 それはいい。 いいんだが。 「・・・活躍ってなんだよ、姉」 「活躍は活躍でしょ」 複雑な顔のエドワードに対して、は軽く笑ってみせる。 「一緒に旅してた頃はあんまり判らなかったけど、中央に行ってからもエド君の噂はよく聞いたんだよ」 「たしかに。鋼のはやることなすこと派手だからな」 「・・・やろうと思って派手にやってるんじゃねっつの」 仏頂面で大佐に釘を刺す。 しょうがないのだ。自分たちが求めているのは、そういうもので。 禁忌に触れるぎりぎりの場所にあるもので。 もはや禁忌の域かもしれないけれど。 「そうですよ。列車強盗のなんか不可抗力で・・・」 横からアルフォンスが援護して、それを聞いたロイはに負けず劣らずの笑顔を見せた。 ただし、多分に黒い何かが含まれる笑顔ではあったが。 「つまり、鋼のはトラブルホイホイというわけだな」 「ロイ兄さんっ!」 すかこーん。 再度おたまを手にしたが、それをハリセンのように使って後ろからロイをどついたのだった。 どうでもいいが、実に良い音である。 再びうずくまるロイを一瞥して、がにこやかにエルリック兄弟に向き直る。 「どうぞ、あがって!」 「……、一応ここ、私の住まいなんだがな」 「今はわたしも居候ですからわたしの家でもありますよ」 「そうか? 私としては居候でなくて本当に一緒に住むような――」 すこぱかこーん。 おたまと平手の見事なコンボ。 その鮮やかな手並みに拍手を送っていたふたりは、もう一度促されてからようやく、家に足を踏み入れたのだった。 |
すいませんすいませんすいません。書きなおし分はあとこの話の後編のみ。 また長くなったのでふたつに切りました。 早急に続きもアップしますので、マスタング邸での愉快なひとときは もうしばらくお待ちくださいませ。 っつか、もしかしなくても最強ですか?(誰がとはあえて云わない) |