Episode24.


 ははははははははははははは
 ははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははは  は

 笑い声。響く。

 は は はははは ははははは は
 はははははは  ははは は    ははは は

 笑い声。沢山。

 それは、さっきまでの、べたべたした笑い声じゃなくて、じっとりした苔みたいな――
「……」
 笑い声の中を、魚が泳いでる。
 ……イルミさんちの川でとって食べた、お魚に、形は似てる。こっちのほうが、ずっと大きいけど。ああ、でも、魚って、空を泳いだりしないよね?
 それに、――――たり、しないよね?

 はははははははははははははは

 笑い声。
 止まらない。
 ふわふわ。
 泳ぐ魚。

 動くの、それだけ。
 ううん。

 魚は、泳ぐだけじゃない。

 魚は――あ、でも、あれ、本当に魚なのかな。
 魚の形した、もっと別の、生き物じゃないのかな。

 ははははははははははははははは
 ははははははははははは  はははは はは ははははは

 だって、魚って、

「なんだよこれはぁぁぁぁ――――!」
「どうなって、どうなって、オレの、からだ、は、はははははははは!!」

 人を食べたり、しない、よね?

「うるせぇよだまれよ、どうなってんだよ、ガキ、あぁぁ!」
「はははははははははははははははははははははははははは」

 きかれても、わたしだって、わかんないよ。
 ただ、わたし、痛いのいやだって思っただけ。帰りたいって思ってただけ。

 なのに、なんで。

 手だけ。足だけ。頭だけ。
 そんなになっちゃった男の人たちが、ばらばらのまま、叫んだり、笑ったり、笑ったり、笑ったり、笑ったり。
 どうしてかって――それは、それだけはわかる。
 そう。たくさんの魚が、男の人たち食べちゃったから。

 うん。食べちゃった。

 さっき、わたし、また床に落ちたの。
 痛くて、目を閉じて、また持ち上げられるって思って覚悟とか決めたの。
 そしたらね、部屋中に叫び声。

 ははははははははははは はははははは
 はははははははははははははははは

 それがこんな笑い声になるまで、あんまり時間かかってなかったと思う。
 だって、わたしが目を開けたときには、男の人たち、半分以上食べられちゃってた。
 魚たち、とてもおなか空いてたみたい。
 わたしと同じだね、食いしん坊だ。

 はははははははははははははははははははははははは
 ははははは ははは
 はははははははははははは

 すごい、ね。人間て、あんなばらばらでも、しゃべれるんだ。
 ううん、そうじゃない。痛くないのかな。血も出てないけど、なんでかな。
 わたしが魚食べたとき取り出した内臓だって、赤黒くってべたべたしてたのに、出てないの、どうしてかなあ。

 ははははは
 ははははははははははは

 小さく、小さく、小さくなってく男の人たち。
 笑い声も小さくなってく。
 でも、まだ続いてる。

 は

 ばくん。
 最後の、動くひとかけら、一匹の魚が食べてしまった。

「――」

 笑い声消えちゃった。
 それで、わたしが起きてられたのは、それのせいだったんだって気がついた。
 だってほら、何も聞こえなくなっちゃって、わたし、目の前がまた、

 びちゃびちゃびちゃびちゃびちゃびちゃ!

 真っ暗のなかに飛び込む前に、水がたくさんぶちまけられるような音がしたけど、それは、わたしをまた起こすくらいのものにはなれなかった。
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