Episode37.
――こんなの書いていっても、どうになるわけじゃないって思う。
だいたい、あたしみたいに素っ頓狂なことにさせないのが、まず、第一歩なんだって判ってる。
お父さんとお母さんなら、きっと、そのためにがんばるって、あたしは知ってる。
「でも、万が一っていうのがあるからねー」
「縁起でもないこといわないで」
「だってあたし、最悪を予想して楽観して生きるのを主義にするんだもーん。それに、ただごろごろしてるより万が一に備えるほうが建設的だよ」
「……はあ。どうしてこんな豪胆な子に育ったのかしら」
「そりゃ、お父さんとお母さんの娘ですからー」
「まったくもう。云うようになっちゃって」
まあ、隣国と四六時中睨みあって戦争もあるような場所で育てばそうなるって。
もっとも、あたしの場合はもちょっと命の危険も多かったせいで、――はいはい判ってますよ、自分でもなんかどっか吹っ切れちゃってるってことは。
ペンの進みはまず順調。はしょりまくってるから当然かな。
ていうか、あたしの話なんて詳しく書いたってしょうがない――もとい、これ、どこのファンタジー小説よ。自分のことじゃなきゃ思わず出版社に持ち込みそう。
それより、伝えておかなくちゃいけないことのほうが多い。
心構えとか、対処とか。
……何しろ、平和な場所に落っこちるって可能性あんまり高くないだろうし。
あたしの場合ってわりと恵まれてるほうだったんだろうし。別のとこ経由で落っこちてきた人たちなんか、いきなりスラムみたいなところでドンパチ巻きこまれてなし崩しだったっていうし。
まあ、だから、出来るだけ。
混乱しないようにあわてないように。
生きてくための根性の入れ方とか、帰るための気合を忘れないようにとか。
ああうん。
こんなのより、もっと、伝えておきたいことはある。
あるけど、これは、絶対に、あたしが書いちゃいけないことだ。
あたしが云っちゃいけないことだ。
放り出していくあたしが、置いていかれるこの子には、絶対に云っちゃいけないことだ。
言葉だけなら綺麗だけど、あたしがこの子に渡すには、――これはあまりに、無責任すぎる。
だから。
がんばれ。って、普通に無責任なことだけ。書いて、あたしは行く。
だから。
――幸せになれ。
妹の顔も見ないで出て行く姉なんて、鼻で笑って蹴り飛ばすくらい。
――幸せになれ。たとえばあなたが認めてくれなかったとしても、あなたはあたしの妹だから。
――だからあなたは幸せになる。
――だってあたしはそれを知ってる。
誰の横にも幸せがあって、気がついてくれるのを待っている