Episode39.


 そして、水を入れたコップに葉っぱを浮かべて、これで水見式の準備完了。
「手を添えて」
 云われるとおり、わたしは、床に置かれたコップを両手で包むようにして囲んだ。触るのはだめってことだから、ちょっと間を空けておく。
「纏……は判らないね」、云いかけて、マチさんは訂正。「コップに向けて精神集中。それは判る?」
「はい」
 お山でやってたとおりに、とりあえず、やってみよう。
 目を細めて、深呼吸。
 目の前のマチさんと、斜め前にいるノブナガさんのこと、すうっと遠ざける。物理的にじゃなくて、なんていうのかな。わたしが、ふたりがいるって思ってる感じのことを薄くするっていうか――あ、そうそう。学校の発表会で劇するとき、緊張した人によく云うよね。お客さんはかぼちゃだと思えとか。ああいう感じ。
 いるけど、いない。
 そういうふうに、感じ方を切り替える。
 そうすると、普段よりずっと、風が動いてくのがわかる。
 ……ううん、今は、前よりずっと。なんでだろう。あのお魚を出したことと、何か関係があるのかな。
 あのおじいさんと逢ったとき、なんだかすごい感じのを受けたから、それでしげきとか来たのかもしれない。あれは、本当にすごかった――って、いけないいけない。
「……」
 意識を、コップに。水に。そして葉っぱに。

 すう、

 わたしの身体をめぐってる風が、静かに、ほんの少し、腕を伝って手のひらへ向かって、それからコップへ水へ葉っぱへ――
 そして、


 どごおおおぉぉぉぉん…………


 爆音。

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