Episode40.


「何してるんだ、おまえら」

 真っ黒の墨コゲになってぷすぷすやってるわたしたちを見て、クロロさんが呆れた声でそう云った。
「水見式」
 ぼそり、マチさんが答える。
 うわ、うわわ。ご機嫌悪そう。や、やっぱり、わたしのせい?
「……水見式で、コレなのかい?」
 いったいどこにいたのか、ううん、どこにいても今の音が聞こえなかったはずない。クロロさんより少し遅れてやってきたヒソカさんも、なんだかおどろいてるみたい。ふうん、と、つぶやいて、わたしを――
「あ、あわわ」
 やっぱり、あの目はちょっと怖い。
 あわてて手を動かして、触れた先はマチさんの腕。そのまま抱きつくみたく……しようとして、いいのかなって迷ったわたしの肩を、マチさんがぎゅーっと寄せてくれた。
「見るな変態」
「失礼だなあ◆」
「……で、そこで腹をおさえて痙攣しているノブナガは」
「笑いすぎ」
 ったく。って、わたしの肩に手をおいたままのマチさんはクロロさんにも一度答えたあと、床に転がってひーひー笑ってるノブナガさんを蹴飛ばした。
 一旦止まったノブナガさんの笑い声。でも、すぐそれに重ねて別の笑い声。
「団長まで」
「いや、笑うなというほうが」
 ノブナガさんみたいな大笑いじゃないけど、クロロさん、口元押さえて苦しそう。ああ、目のトコに涙浮かんでるみたい。
 ……うう。恥ずかしい。
 やっぱり、おかしい結果なのかな。爆発って。
「……ま、これで一応系統は判ったね」
「え? わかったんですか!?」
 こんなむちゃくちゃな結果で、本当に?
 びっくりするわたしの頭を、ぽん、て叩いて、マチさんはうなずく。
「水見式の前に話したことは覚えてるかい?」
「あ、は、はい」
 詳しいことはあとで、っていう前置きで、教えてくれたこと。
 念には、『強化系』『具現化系』『操作系』『変化系』『放出系』『特質系』っていうのがあるということ。同じ系統だからみんな同じことが出来るんじゃなくて、大まかに分けるとそういう特徴があるんだって。
 それを知るのが、水見式。
 精神集中――念をコップに浮かべた葉っぱに流して、その変化で、系統を判断する。
 ……爆発で判断できる、わたしの系統って、何なんだろう……
 どきどき。
 見上げて待っていたら、
「特質系だな」
 って、笑いを引っ込めたクロロさんが云った。
「特質系の人たちが水見式すると、爆発してるんですか!?」
 だとしたら、なんて危ない系統なんだろう……!
 びっくりして振り返ったら、「ぷ」って。……また、笑われた。
 ……変。
 口元手のひらで隠して、くっくっく、って笑ってるクロロさん。
 変。
 髪の毛上げてるのに、どうして、普通のお兄さんみたいに笑うんだろう。団長さん、そういう笑い方していいのかな。みんな、今、いるのに。しかも、わたしみたいな部外者の前でそういうの見せたら、ケンイとか、薄くならないのかな。
 ……ああ、でも、楽しそう。かも。
 そういうふうに笑ってくれると、ちょっと、安心しちゃう。
 そういうところもあるんだなあって、思っちゃう。
「強化系は水の量が変わるんだよ♥」
 急に、横からヒソカさんが云った。
「操作系は葉が何らかの動作をする◆ 変化系は水の味が変わる♣ 放出系は水の色が変化する◆ 具現化系は水中に不純物が出現する★」
 き、決まってるんだ。じゃあ特質系ってやっぱり――
「ちなみに、特質系は、今ヒソカの奴が云った以外の変化が起きるな」
「え」
 身体中の煤を払い終わったノブナガさんが、にやにや笑って付け加えた。
「だから何が起きようが、さっき以外の変化なら特質系ってわけだ。おまえの場合、具現化系からの変異だろう」
「へんい?」
「特質系ってのはな、他のみたいに生まれつき持ってる系統じゃねえんだ」
 仮面ライダーとか想像しちゃったわたしに、ノブナガさんとマチさんが根気良く説明してくれる。
「強化系とか、他の系統だった人間が突然変異するんだよ。だから、特質系って一口に云っても、水見式の結果やその能力は千差万別ってわけ」
「……あ」
 じゃあ、特質系の水見式が爆発ってことじゃないんだ。……ああよかった。
「でもそうなると、念はあたしじゃ面倒みきれないね」
「え!?」
 安心から、またびっくり。
 見上げた先のマチさんは、でも、困った感じもなくて髪を手でいじってる。
「念の修行はさ、やっぱ同系統の師匠がいいわけよ。でも、あんたの特質系に対してあたしゃ変化系だから」
「そ……そうなんですか」
 残念。って思ったのが、顔に出ちゃったんだろう。マチさんは、ぽんぽん、て、わたしの頭をたたいてくれた。
「だから、念のほうは団長に任せるわ」
「……そうですか」……って。「えええぇぇっ!?」
「いや、えええって。団長も特質系だからちょうどいいだろ」
 思わず叫んだわたしに、ノブナガさんが、ひらひら手を振りながらつっこんだ。
「え」
 クロロさんを振り返る。
 そしたら、頷いてくれて、クエスチョンマークは解消された。解消は、されたけどっ。
「でででででででも! わた、わた、わたし! マチさんの云うとおりに平均にぜんぜん足りないから! お師匠になってもらうのは手間がかかりすぎ、てっ」
「それは、これから毎日基礎体力づくり」
「え!? あ、はい!?」
「並行して念の修行」
「ええ!?」
「生き抜くんだろう?」
 右と左、マチさんとノブナガさんに攻撃、とか、ほんろう、とか、されて、くるくるまわってるわたしを止めて、クロロさんが云った。
 ――生き抜くんだろう、って。
 そのために、ここにいるんだろう、って。
「……」
「できるな?」
「……します」
「よし」
 ぐ、っと、両手をにぎりしめて答えたら、クロロさんは、マチさんと同じように、ぽん、と頭をたたいてくれた。

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