Episode41.


 えげつないね。

 すっかり夜に包まれた時間帯、明るすぎはしない室内で、ぽつりとマチがつぶやいた。
「何が?」
「別の念能力を開発させて、また分捕る気?」
 あの魚の念を手に入れたクロロは、しばらくご満悦だった。
 まだはっきりとはしていないが、出現条件のひとつにおそらく密室状態であることが必要だという――いささか使用が限定される要素はあるものの、殺害にひときわ秀でた能力を手中にしたのだ。
 これで仕事中の障害も排除しやすくなる可能性が上がる、というもの。
 念能力は、当人の資質に大きく左右される。
 まさかあの子供が、そういった殺害能力に関係するものを発現させるとは――妙に腑に落ちないというのが、マチの正直な意見だ。
 昼間の騒動を見ていたパクノダもまた、じっとクロロを見つめている。
 ノブナガは、どうでもよさそうに窓枠に腰掛けていた。耳だけはこちらの会話を拾っているのだろうが。
 そうして問われたクロロは、
「いや。これで充分だ」
 と、彼にしては珍しく無欲な素振りを見せて答えた。
 マチとパクノダのみならず、ノブナガまでも含んだきょとんとした視線を受けた彼らの団長は、未だ読み終えていない『教科書』片手に口元を持ち上げる。
「これきりだ。が今後生み出すものには、あまり興味が出ない気がしてな」
「何それ? 勘?」
「勘はマチの十八番だろうよ?」
 くく、と笑ってノブナガが茶化す。
「暇ならと遊んでなよ」
 眉をしかめてマチが応じ――「……」何やら不穏なものを感じたかのように、立ち上がる。
「どうしたの?」
は?」
 問いを問いで返されたパクノダは、特に気分を害した様子もない。顎に指を当てて考える仕草。それから、思い出したように云った。
「食事の後、団長が、呼びに行くまで纏の修練をするようにって云って、それきりじゃない? あの子、無断で部屋から出るような真似はしないでしょうし今も――」
「ヒソカは?」
 問われたのは、アジト在住者でここにはいないもう一人。
「暫くこちらにいるって話をしてたけど?」
「違う、今」
「…………」
 妙に要領を得ないマチの問いに、とうとうパクノダが首をかしげた。
「そこまで、一々把握してないわよ」
「……ちょっとの様子見てくるよ」
 胸騒ぎ。そんな感じを隠さないマチの様子に、クロロとノブナガも首をかしげた。
 これはあれか。
 勘なのか。

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