Episode45.

 そして、今日も日が暮れる。
 寝泊りに使いなさいって分けてくれた部屋に戻ると、もらった着替えが何着かと、ところどころ汚れたカレンダーと時計、平たい四角形したリュックサック。それから、……黒い汚れが落ちないランドセルがわたしを出迎えてくれた。
 ちらっとランドセルを見て、すぐ、目を逸らす。
 においが移るかもしれないからって云われたから、中身は全部出しちゃって、リュックサックに移してる。汚れてないのはそのままでよかったけど、笛とか定規とか、ランドセルからはみ出てたのは、どうしても、――血が。ついちゃってたから……捨てて、しまった。
 洗おうかって、思ったけど。
 でも、触ったり。吹いたり。
 すること、考えると。
 背中がぞわぞわってして、胸が、ぎゅううぅって悲鳴あげた。
 だから、捨てちゃおうかって、笛や定規を持って云ってくれたマチさんにうなずくので、精一杯。どこへ行くかも判らない、持っていかれる道具を見送ってる間、ごめんねって。ずるいけど、思って、さよならした。
 でも、フィンクスさんのナイフは別。あれは、ちゃんと、フィンクスさんに返した。
 こっちは、借り物だから。いっぱいがんばって洗って返すつもりで、そう云ったけど、別にいいって断られちゃった。どうせすみっこに転がすとかなんとか――そんなに大事なものでもないんだって。
 あ。ついでに入れてくれてたビスケット。あれは無事だった。袋の中で粉々だったけど。これは、食っとけよバカ、っておでこ弾かれたんだったよね。
 そうして考えを切り替えたら、少し気持ちが楽になった。
「……」
 でも、窓ガラスには、すごく悩んでる顔したわたしが映ってる。
「……」
 いつも、夜はくたくたですぐ寝てるんだけど、今日は、わたし、窓まで歩いて、映ってる自分とにらめっこしてみた。
 ……ブサイク。
 口に出さないで云うと、窓のわたしもそう云った。
 きっと、クロロさん、呆れてるよね。もう何回目だろう、まだできるはずって云われても、できないっていうの。怒られるのはこわくないけど、もう要らないって思われちゃうのは哀しい。だからがんばりたい。――がんばりたいんだ。けど。
 けど。
 けど――ねえ、あの日のわたし、教えてよ。
 どうして、あんな、逃げるだけのでもよかったのに。あんな、食べて、食べて、殺して、殺す、ようなお魚を。ほしいって、思ったの。

 わたし、あの人たちを殺したくて、あのお魚をつくったの?

「……どうして」

 殺そうって。思ったの?

 怖かったから。
 痛かったから。
 ひどいことされたから。

 それで、だからって、殺していいって。誰が決めるの。
 死んでいいなんて、誰が決めるの。
 わたしが決めていいはずなかった。
 わたしはわたしのことだってきちんと判って決められないのに、誰かのその先をむりやり決めていいなんてこと、ぜったいに、なかった。
 なのにどうして、できたの。

「…………」

 がんばりたいのに。
 ここでがんばらなくちゃいけないのに。
 この、力を、強くしなくちゃいけないのに。

「……」

 だいじょうぶって思ったあれは、どこへ行ったの?
 だいじょうぶって思える何かは、どこにあるの?

 だいじょうぶだと。
「云って――」
 くれる、そんな。

 誰か。
 何か。
 あの時。

 わたしがお魚つくることを、止めて。――止めて、怒って、くれる。

 ……誰かが――

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