Episode47.
今日は、パクノダさんの用事があるってことで、午前中の体力作りはお休みになった。どうしてわたしのがお休みになったかっていうと、パクノダさんがわたしを連れていきたいからだって。「……子連れじゃないと難しいのよ」
「?」
ちょっと遠い目をして呟くパクノダさんの隣を、てってけ急ぎ足で歩きながら、わたし、いったいどこに行くんだろうって首をかしげた。
お仕事らしい。
でも、――殺したり、とか、そういうんじゃないんだって。
そういうのだったら、わたしは連れて行かないんだって、クロロさんとパクノダさん、云った。
……うん。現場で吐いたり嫌がって泣いたりしたら足手纏いだし……っていうか、だいたい、殺したりって悪いことだし!? ああ、でも、わたし、その人たちの所にいたいって思ってて。今日だって誘ってもらったの嬉しくて。だってあの建物から離れたの、あの訓練以来はじめてだし。パクノダさん、わたしが遅れたりしないように歩いてくれてるし。マチさんが、いってらっしゃいって手を振ってくれたし。
それからそれから――
なのにどうして。
殺す人たちなんだろう。
「…………」
「?」
「あ、はい!」
急に足が止まってしまったわたしを、何歩か先へ行ったパクノダさんが振り返る。
何をしてるの、って訊かれる前に気づけたから、あわててお返事。駆け寄った。
「考え事?」
「は、はい」
別に怒られてるわけじゃないのに、考えてたことがことだったから、わたしのお返事はあんまり元気がないものになっちゃう。
そうしたら、急に、目の前にパクノダさんの手がのびてきた。
「えっ?」
わたしよりずっと背が高い、パクノダさんを見上げる。いままでみたいに、普通に見れる顎のあたりじゃなくて、ちゃんと目を合わせるために、首をぐいっとかたむけた。
いつの間にか前に落ちてきてた髪が、ぱらぱらって横に流れてく。
他の子みたいに真っ黒じゃなくて、どっちかっていうと茶色っぽいわたしの髪がどいて広がった正面で、パクノダさんがほんの少し笑って、わたしを見下ろしてくれてた。
「疲れたのなら云いなさい。別に急ぐわけじゃないから」
ひらっ、て。おいでと云ってるみたいに動く手のひら。大人のひとの大きな手のひら。細くてきれいな手のひら。
誰かを殺した手のひら。
「あ」
ありがとうございます。って、云わなくちゃ。そう思ったのに、言葉が喉の途中でつっかえる。
そんな、怪しそうなわたしのこと、パクノダさんは別に怒ったりしない。しょうがないわねってふうに笑って、そっと、持ち上げかけた手をとってくれた。
ちょっとひんやりしたパクノダさんの手は、汗がにじんでたわたしの手の熱を持ってってくれて、気持ちがいい。さらっとしてて、べたべたしてるわたしの手を持ってくれるのが、もうしわけないくらい。
だけどやっぱり、パクノダさんは嫌な顔しない。大人だから?
それとももっと、汚い手を
「っ!!」
違う。それは違う。
血でぐしゃぐしゃの手が汚いなんて、そんなのちがう。
血って生きてるしょうこだもの。
ここにいるよってしょうめいだもの。
それで真っ赤なものを汚いなんて。そうさせる手のひらがもっと汚れてるなんて。
だってパクノダさんの手も、マチさんの手も。
クロロさんの手のひら、旅団の人たちの手のひら。
……あったかくて。
あったかくて、あったかくて――
「」
「は、はい!!」
「云いたいことがあるなら、云いなさい」
「……あ」
「たしかに、あたしたちはあなたにとって悪人だけど」
ふっと気がついたら、大通りを歩いてたはずのわたしたちは、小さな路地みたいなとこを進んでた。
――ああ。もしかして。
うっとおしくなってきたから、もしかして?
だって念だってうまく使えないし今だってうじうじしてばっかりだし。
うっとおしくなっても、おかしくないし。
でも。
でも、パクノダさんの声は、(かん違いかもしれなくても)静かで、ぜんぜん、そんな風さえ感じさせない。
そうして、さっきまでと変わらない声で、パクノダさんはこう云った。
「あたしたちはあなたを傷つけるつもりはないのよ」
「…………」、そっと。手のひらを握り返す。やっぱり、体温も心地よさも変わらない。「はい」
うなずいたら、パクノダさんも頭を一度上下に動かしてから、また歩き出した。
でも。ちょっと、違うんです。パクノダさん。
わたしは、わたしはたしかに死にたくなくて生きたくて、でも、引っかかってるのはそれだけなんじゃなくて――