Episode49.

「――どうしたの、それ」
「えっと、親切なおじいさんが、似合うからって買ってくれました」
「…………」
 結局お洋服買ってもらっちゃって、そのままお店から出てお店から見えないところでいっぱいいっぱいお礼と少しのお話をしておじいさんとお別れしたあと、入口までこっそり戻ったら、ちょうど出てきたパクノダさん。
 何をしていたのって訊かれたから、一部をのかして本当のことをお話したんだけど、どこか別の場所を見て呆れた顔。
「……まあ、いいけれど」って云ったあと、「大したことでもなさそうだし」そう、自分をうなずかせるみたく、パクノダさんはつぶやいた。
 ちょっと気になったけれど、わたし、今は、それより気にしなくちゃいけないことがあるから、横に置いておく。
 それから、ずいってパクノダさんに近づいた。
「あの!」
「なに?」
「急いで、帰ってもいいですか!」
「――」
 そう訊いたら、パクノダさん、目を丸くした。
「帰る」少し間を空けて「の?」
「はい!」
 やりたいことがある。
 やらなくっちゃいけないことがある。
 わたしが、わたしに、刻み込まなくっちゃいけないことがある。
 別れ際におじいさんとお話して、わたしは、やっと、あのときお魚を呼び出したわたしとお魚に食べられた男の人たちを怖がらずに思い出すことできる方法を思いついたんだ。
「そう」
 ふわり、と、パクノダさんが、ほほえんで、わたしに手を差し伸べてくる。
「それじゃあ、帰りましょう」
 もちろん、わたしは、その手をとった。
 ――あったかい。と、思いながら。



 おぬしは子どもじゃ。まだ小さい。知らないことも多かろう。
 ひとつひとつ、知っていけばよいのじゃよ。
 楽しいことも苦しいことも、喜びも悲しみも、痛みも。

 何をもって、良いこと悪いことを、己に断じるかも。


 まだ、知っていくことができるじゃろう?

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