Episode52.

 子どもが笑った。
 少女が笑った。

 これから己が何を眼前にするか判っていないのか。いや、判っているだろう。
 愚かではあるが莫迦ではない。それが、クロロの持つ、この娘に対する最大公約数的評価。
 娘は知っている。
 死の意味を、殺傷の意味を、幼いながらに知っている。
 だからこそ、己の生命を守るためとはいえ無意識にその手にかける形となった男たちの生命の重みを受け止めあぐね、自身を縛り付けていた。
 痛覚とは違う痛みを、これからその身に蒙る恐怖が、まさかないとは云うまい。
 だというのに、

 は笑った。
 そして、
「――おねえさん」
 つぶやくのだ。

 周囲の何をも見逃すまいと、いつも不必要なまでに見開いている感のある、濃い琥珀色の双眸を伏せて。どこを見ているのか何をその脳裏に描いているのか。
 そんな表情は初めてだ。初めて見る。
 そんな表情も出来たのか。怯えてばかりではなかったのか。
 否、このような状況を望んだのは当人なのだから、怯えを克服しかけてはいるのだろう。
 だが。

「どこを見ている」

 投げかけた声は、己で意識した以上に低かった。

 ぱっ、と。いつの間にか俯いていたの顔が、持ち上がる。
 くるっと開かれた真ん丸い目が、一瞬誰かを探すように彷徨って――すぐにクロロをとらえ、落ち着いた。
 真っ直ぐにこちらを見上げ、は、きゅっと口元を引き結ぶ。

「始めるぞ」
「はい」

 続けた声は、己で意識した以上にゆるやかだった。
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