「あー! サイレンスさん何やってたんですか!? 三日間も音信不通で!」
「・・・・・・」
「三日探したけどいなかった? 犯人の居所の情報がデマだったんですか? ……え、じゃあ三日もオーンブルに影送ってたんですよね。疲れませんでした?」
「・・・・・・」
「そりゃ影のときは疲れないでしょうけど! 抜けてる間、ずっと立ち尽くしてたわけじゃないですか。身体の方は? なんだったら休暇取得の援護射撃しますけど」
「・・・・・・」
「ヒューズさんは盾のカードの担当まわってきて、本部で腐ってますよ。ドールさんは……あ、はい。そうです、シンロウ。コットンさんとラビットさんは――知ってます?」
「・・・・・・」
「そうなんですよー。それで、人手不足だからって、わたしに白羽の矢が立ったんです」
「・・・・・・」
どうでもいいが、いや、よくないが。
ひたすら無言を貫く青年相手だと、何の描写もなければ、が独り言を云っているようである。それはそれで怖い。
しかし、首を縦に振ったり横に振ったり少し傾げたりするだけのジェスチャーで、よく相手の意図が判るものだ。
「・・・・・・?」
あ、でも。今のは判った。
視線をルージュに向けて、に戻して、小首をかしげる。
「あ、こちらの方ですか? ルージュさんと仰ってですね、サイレンスさんを見かけなかったかどうかお伺いしてたんです」
そうしてルージュの予想どおり、はサイレンスにこちらの紹介をして。
「ルージュさん。こちら、サイレンスさん。わたしが捜していた方です」
「あ……こんにちは。マジックキングダムのルージュです」
ぺこりと頭を下げると、果たして、サイレンスは淡く微笑んで頷いた。
妖魔というと、もっとプライドが高くて他の種族を見下すような性格なのだと学んでいたが、世の中は広いということか。頭のなかの辞書をこっそり書き換えるルージュの前で、は嬉しそうにサイレンスに話しかけていた。
「よかったぁ。これでIRPOに帰れますね。早くいつものお仕事に戻りたいです」
「いつものって……清掃員?」
ちらりと聞いただけのそれを思い出して問うと、はにっこり頷く。
「はい! 本部の掃除がわたしの生きがいです!」
だからそんなもんを生きがいにするな。
――このとき、ルージュとサイレンスの意志は間違いなく同調していた。
だが、その感想を、ふたりが口にすることはなかった。
至極楽しそうなに、水をさすのもどうかと思ったのもある。
しかし、実際もっと大きなベクトルを占めていたのは――
「!」
サイレンスが、表情を険しくしての身体を抱えた。
遅れることたかだかコンマ一秒もなく、ルージュがそのサイレンスを追って横に飛ぶ。
「わあぁっ!?」
そうして。
ちょうど、3人がそれまで立っていた場所――ルミナスのシップ発着場、乗降ゲートから。
「どけ――――ッ!!」
と、実に勇ましい声とともに、緑の髪の女性が駆け出してきたのである。
それに続くように、今度は真っ白い女性。
そしてどん尻に控えしは、一風変わった趣の鎧に身を包んだ、騎士のような存在だった。
これだけなら、騎士くっつけたどこかの高貴な女性ふたりの旅なのかと、まあ、先ほどの叫びは無視して思えなくもない。ところがどっこい、その騎士は、駆け出してきた女性を守るためについて出たわけではないようだ。
空気を裂くような音とともに、騎士は斬撃を繰り出した。相手は、緑の髪の女性。
「しつこい!」
が、緑の女性は、それを、手にした真紅の剣で受け流す。――たしか、ディフレクトというガード技だ。
いつかIRPOの図書館で読んだ『世界の技999選』を思い出しただが、そんなのんびりしている暇はない。
抱えてくれていたサイレンスの腕を解いて、ばっと立ち上がる。
「そこ! 公共施設内での乱闘は禁止されています! やるなら外でやってください!」
「そんなの、こいつに云ってくれ!」
ビシィと指差してそう云えば、緑の女性から至極当然のお答えが返ってきた。そりゃそうだと、背後でルージュとサイレンスが頷いている。
そして、ふと。
白い女性が、何かに気づいたようにサイレンスを視界におさめていた。
「あら? 貴方たしか――」
「!」
瞬時に身を固くして、サイレンスは、白い女性のことばを遮るように首を振る。
意図を察したのだろうか、女性は、それ以上を告げるのをやめた。ただ、いぶかしげな感情はさすがに残っているけれど。
「サイレンスさん、お知り合いですか?」
気になったが問えば、サイレンスは少しだけ、ためらうような素振りを見せ――それでも、首を縦に振る。
「……そう、サイレンスと名乗っているのですね」
やりとりが聞こえたらしい白い女性は、少し寂しそうに微笑んだ。
が、その表情はすぐに改められる。
「サイレンス。そして、どなたかは存じませんが、この騒ぎに迷惑を感じておられるのでしたら、ぜひ、私たちに力を貸していただけませんか?」
そのことばは、、サイレンス、ルージュを均等に見つめて告げられた。
そうして真っ先にが立ち上がる。
「判りました。リージョンの平和を守るのがIRPOです、お手伝いいたします」
「・・・・・・」
続いて、サイレンスも頷く。
「……えぇと」
こちらは完璧に、通りすがりに巻き込まれた、まったく偶然の事故としか云えないルージュのつぶやきである。
そんな彼を、はくるりと振り返る。
「ルージュさん。よかったら、わたしのお手伝い、ここでしていただけませんか?」
「……」
よく覚えてたね、と、向けられた双眸が云っていた。
記憶力はいいんです、という意図を込めて、はにこりと笑う。
すぐに、笑顔が返ってきた。
「ありがとうございます! 私は――」
「そんなのあとで! さ、あのお姉さんに加勢です!」
自己紹介しようとする白い人の背を押すように、たちも、戦いの場に駆け込んだのだった。