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 空は赤く。
 炎は紅く。
 現世すべてを灼き尽くして足りんとする、それは劫火。
 現界した地獄。

 月は黒く。
 大気は淀み。
 大地は爛れ。
 すべてが呪いと怨嗟に呑まれてゆく、それはとこしえの闇。
 現界した絶望。

 ――ああ、またこの夢か。

 炎のなかを、こどもが一人、走っている。
 どこにそんな体力があったのだろう。髪は炙られてちぢれ、肌で火傷してない場所を探すほうが難しい。顔色なんて最悪。まっとうな呼吸が出来る大気じゃないのだから。
 それでもこどもは走ってる。
 何のために?
 生きるために?

 ――ちがう。

 わたしは、この答えを知っている。
 何故なら、あの子はわたし。
 この夢は、あの地獄にいたわたしの記憶。

 そう。だから、あの子が何を思ってあんなに懸命に走ったのか、わたしは知っている。

 生きたかったからじゃない。
 炎から逃げたかったわけじゃない。
 呪いを怖れてたわけじゃない。

 自らの延命など、とうにどこかに置いてきた。
 それでも走った理由は、ひどく単純なもの。

 ――――ただ、許せなかった。
 なにもかもが、業火と怨嗟に飲み込まれてゆくのが。
 ――――ただ、悔しかった。
 なにもかもが、有無を云わせぬ力で刈り取られてゆくのが。

 ――――ただ。見つけたかったのだ。

 怨嗟と業火のなかでも輝く、とうといなにかを――――

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