- ――それは、本当に、魔法のように現れた。 爆音が大気を震わす寸前か、灼熱が身を焦がす刹那か。 唐突に、その子は俺の目の前に姿を見せた。 「問――――」 心持ち伏せた目を持ち上げて、開きかけた口を閉じたその子の目がまん丸に見開かれる。うーむ、やっぱり驚くだろうな、出てきた場所が魔力渦巻く建物ん中で、今にも爆発が起ころうとしてるってんじゃ。 んで。 「な……っ!?」 しょうがないんで、正面に現れたその子に俺は体当たり。 何しろ、その瞬間まさに土蔵から脱出しようと、筋力強化のオプションつきで床を蹴ったところだったのだから。車は急に止まれない。 彼女は俺の行動にも驚いたみたいだった。だけど、説明してる暇なんてない。 腕を伸ばして、その子の腹に腕を引っかけて――がむしゃらに、なりふりかまわず、ふたりして土蔵から転がり出た直後――闇を切り裂き炎が生まれ、爆音が響く。 続いて衝撃。 爆発源はやはり、土蔵の奥のどこかに転がった“矢”だったらしい。飛んでくるだろう瓦礫を避けるために横の茂みに転がりながら、そんなことを考えた。 「士郎――――!!」 燃えさかる炎の音に紛れて、の声。 あー、あいつ暴れてるな、きっと。ランサー、うまく押さえておいてくれるといいんだが。 衝撃のせいか炎のせいか、はたまた急激に酷使したせいか。ズキズキ痛む節々を堪えて、起き上がる。成り行き上仕方なかったとは云え、下敷きにしてしまったその子に声をかけた。 「すまん、だいじょうぶか?」 「いえ。これしき、たいしたことではありません」 鎧のおかげなのか、それとも本当にたいしたことではないのか。 俺よりも遥かにダメージは微少であることを証明するように、すっく、と彼女は立ち上がった。 ――金色。 炎と月明かり、ふたつの光源に照らされて、絹糸のような髪がさらさらと風に舞っていた。涼やかにこちらを見つめる碧の双眸は、心のなかまで見透かされるような錯覚を俺に与える。 ああ。 出現したのも魔法じみてるなら、この子の存在こそが、そもそも魔法みたいだ―― が心配してるだろう、と、ちらりと頭の隅で考えたけれど。ゆっくりと持ち上げられた彼女の唇から紡がれることばを、つい、俺は待ってしまった。 「改めて問おう。貴方が――――」 でも。 待った甲斐は、残念ながら無に帰す。 他でもない、俺のせいで。 「――――!」 佇む少女の向こう。 俺たちの飛び込んだ茂みの先。 ランサーに抱えられたまま、じたばた暴れるが見えた。 そしてその背後、双剣を携えて地を蹴ったアーチャーの姿。 狙うは荷物を抱えたままの蒼い槍兵か――! 「――っ、ぐ――!」 駆け出そうとした俺の身体は、だが、云うことを聞いてくれない。 が、ランサーはアーチャーの接近に気づいた。 を茂みに放り投げる。双剣を受け止めようと身を翻し、 「――え?」 崩れ落ちた俺の傍らから、風が一陣飛び立つ。 りん。 まるで、地面を跳ねる鈴のように、軽やかに。 俺の視線を追った少女が、鎧の重みを感じさせない身のこなしで“そこ”へ駆けていた―― |