- これから聖杯戦争の監督役のところに行こう。 サーヴァントをそのまま連れて行くと目立つ。それは困る。 じゃあ霊体にしなさい。 ……霊体になれない。 セイバーとランサーのその事実が発覚したとき、遠坂さんはキレた。 「あんたらね――――! 魔力の調節も出来ないの――――!?」 がーっ! と吼えるあかいあくまから逃げ出して、わたしたちは居間の隅っこに身を固め、ブルブル。 長い長い説明会議、しかも寸たりと判ってない奴ら相手に伸びきってたどこかの糸が、たぶんブッツリ切れたんだろう。 なんとなく成り行きで引っ張ってきちゃったセイバーとランサーに、嵐が過ぎるのを待つ間訊いてみた。 「なんで霊体になれないの?」 セイバーはちらりとランサーを見て、何かを諦めたように小さくため息。 「……シロウ。と戦う予定は絶対にないですね?」 「あるわけないだろ」 何がかなしくて、きょうだいと戦わなきゃならんか。 むっとむくれた士郎をにつづいて、わたしもこくこくと頷いた。 セイバーは何やらブツブツ云っていたけど、はあ、ともう一度ため息。 「――召喚の際、何か問題が起きたのかもしれません。令呪を介したつながりはたしかにあるのですが、魔力を通すパスが感じられないのです」 「「……へ?」」 なんじゃ、そりゃ。 衛宮のきょうだい揃っての疑問符に、セイバーはちょっと呆れた目を向けた。 「ですから。魔力をマスターからサーヴァントに送るパス、これが機能していないのです」 「……だから霊体になれない、と?」 「はい。本来霊体となるには余分な魔力をカットすればよい。それが私の場合、そもそもマスターから流れてくる魔力がなく、自力で実体化している状態です。非常に中途半端であり、うまくこの身の制御が出来ません」 あー、その。 つまり。 「よく判らないけど、士郎が何かポカしたわけか」 「…………」 「自覚しねえミスがでかいと辛いな、坊主」 膝小僧抱えて丸くなった士郎の背を、ぽんと叩いてわたしは云った。 横からランサーが追い打ち。セリフこそ慰めてるけど、表情も口調も間違いなくトドメだ。 そうしてそのランサーに、セイバーが目を向ける。 こちらの事情を教えたのだから、ちゃんとそちらも話せとまず視線で告げて、 「貴方は何故なのです、ランサー。まさかそちらまでパスが繋がっていないなどと云いませんよね」 「ん――あぁ、それは問題ねえ」 何か考えてたらしいけど、ちゃんとこっちの話にも耳を傾けてるあたり、さすがというかなんというか。ヒュン、と飛んできた遠坂さんの魔弾の射程からわたしを動かし、ランサーはあっさり頷いた。 ゴッ、と砕かれた壁の欠片を、セイバーが片手で払い散らす。 「その逆だ。パスもあるし魔力も流れてる。だがな、の場合、その量が遠慮会釈ねえっていうか、蛇口がフル稼働っていうか」 「……は?」 「一杯の酒でいいところを、樽で寄越されるようなもんだな。美味いからいいんだが、おかげで俺の方じゃ調整しきれん」 ランサーの回答を聞いて、セイバーは「むむむ」と唸る。 「……、貴女自身のほうでは調整しないのですか? 魔術回路の切り替え等は魔術師の基本技能では――」 「あ。は魔術師じゃないぞ」 ひょこり。復活した士郎が、横から注釈。その頭上を魔弾が薙いだ。 あ、遠坂さん少し息切れしてる。 「――で、どうすんの!?」 ようやっと落ち着いてくれたのか、ちょっぴり荒いけどさっきほどじゃない声で、遠坂さんがわたしたちに詰問する。 「どうするって」 「置いて行くか、目立つの覚悟で連れて行くかよ」 「マスターをひとりで放り出すわけには行きません、私は着いていきます」 「勘弁してくれ。明日“怪奇! 現代に甦った亡霊か、街を彷徨う鎧の騎士!?”とか見出しがあっさり想像出来るから」 それは、士郎の想像力がたくましすぎないだろーか。 「なら、武装解除すりゃいいんじゃねえか?」 「やめて」 今度はわたしが速攻で否定。 またあんなの見たら、頭に血がのぼって噴水。 「いや、鎧取るだけだって」 「あー……じゃあ、やっぱ浴衣出すか。ランサーはそれでいいとして、セイバーは?」 「はい、士郎。セイバーに切嗣の浴衣は大きいと思う」 「はいはい、じゃあこれでも着てなさい」 バサリ。 隣の部屋にかけといた黄色い雨合羽を、遠坂さんがセイバーの頭にすっぽり被せた。 って、いつ持ってきたんですか、遠坂さん。 「遠坂……いくらなんでもそれは……」 立ち上がりかけた士郎が、あんまりじゃないかと抗議しかけたけど。当のセイバーによって否定される。 「いえ、シロウ。これなら鎧ごと隠せます。まったく問題はない」 アーチャーのマスター、感謝する。 「……」 「……まあ、セイバーがいいって云うなら……」 いいんだけどさ、と、口の中でもごもごつぶやいて、士郎は居間を出て行った。 むう。 なんというか、まずこのふたりには日本で暮らす場合の世間体とか一般常識とかを教えなくちゃいけないのかもしれないなあ―― |