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 話が終わったならもう用はないわ、と云い放って、遠坂は文字通りずんずんと歩き出した。
 来るときの歩調がもはや亀に思えるくらいの大股、早足。
 おーい遠坂、制服のスカートがばっさばっさと翻って女と思えないくらい勇ましいぞ、今のおまえ。
「士郎、行こう」
 と、家を出るまではその遠坂と同じ格好だった我がきょうだい殿が、俺の袖を引っ張った。
「ああ」
 軽く頷いて、その手をとる。
 それにしても、驚いた。って、昔からあんまり他人に自分の意見を強く云ったりするような奴じゃなかったんだけどな。
 ……それだけ、神父が気に入らなかったのかもしれない。うん。
 水と油と表現するのが適当なんだろうか、遠坂の理由とはきっと違うんだろうが、俺たちだって話が済んだなら一秒たりとここにいたくないのは同じ。
 それくらい、言峰神父は気に入らない。
 なんでかって問われると困るけど、なんででも。
 特に
 俺と違って、周囲の空気への感応力が並外れてる――くせに、その気にならなければ普段は俺と同レベルだったりするんだが――こいつを、あまり長いことここに置いておくわけにいかないと思った。
 うん。とっととセイバーたちのところに戻ろう。
 さっき家でそうしてたみたいに、俺ととセイバーとランサー、そして遠坂、おまけにアーチャーが揃う場所に。
 ――だっていうのに。
「待て」
 えらく間近で、神父の声が聞こえた。
「――――っ!?」
 振り返り、そして、驚愕。
 いったいどんな魔術を使ったのか。単に俺の気が急いてただけかもしれないが。とにかく、足音も立てずに近づいてきたらしい神父が、俺たちの背後に立ってやがった。
 その姿を認めた瞬間、身体が動く。
 即座にを扉のほうに押し出し、ふたりの位置を入れ替えた。
「――なんだよ」
 迫力で敵わないことは判っていながらも、なんとか抵抗せんと睨みつける。
 背後になった扉のほうで、蝶番の軋む音。
 遠坂の奴、さっさと出て行ったらしい。気づかなかったのか、我関せずを貫いたのか。むう、ドライな奴め。
 内心がそっぽを向いてる俺を、神父はただ見下ろしている。これ以上沈黙が続くなら、このまま出て行ってやろうと思ったときだ。
 ふ、と神父の口の端が持ち上がった。
「――喜ぶがいい、正義の味方を目指すのなら」
「な――」
「……え?」
 なんで、こいつが。
 俺たちと切嗣の、あの約束を知っているのか。

 瞠目する俺たちの反応など、もはやどうでもいいのだろう。
「――君たちの願いは、叶うだろう」
 ただそれだけを告げて、身を翻しやがった。

「……」
「……」

 が、無言で前に出る。肩が怒ってる。
 俺は、それを止めない。それどころか、横に並ぶ。

 うん。
 なんていうか。

 べらぼーにむかつきました。ので。

「こんな誰かが死ぬための戦いじゃ、願いは――」
「――目指す場所なんて行けるわけない……!」

 ああ。
 叫んでやりましたとも。
 そりゃあもう、力の限りな……!

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