- 見物。 ――これぞまさしく、見物であった。 彼は覚えている。 あの、すべてを灼き尽くす炎の海で対峙した男のことを。 エミヤキリツグという名の、魔術師のことを。 その後継者が、まさか。 それだけでも見物であったというのに、今の発言。 かの男が羨望し嫌悪してやまぬあの魔術師の名を受け継いだ少女と少年は、だが、あっさりと云ってのけた。 目指すのはそれではないのだ、と。 「ふむ」 くつくつ。 喉を鳴らして彼は笑う。 あの鉄面皮が崩れ去るのを見るのが、こうも楽しいとは思わなんだ。 しかも、その理由はことごとく、あの少女と少年。 聞いていれば、ランサーの令呪を剥がしたのも、あそこの少女の仕業だと云うではないか。 「……犬め。下賎の分際で、大層な主を得たものだ」 本人が聞けば憤怒しようが、今、この扉の内にいるのは彼ただひとり。 「うむ、まさに愉快」 一筋の明かりを零す扉に預けていた背を離し、彼は今度こそ歩き出した。 声こそ発してはいないものの、その背はたしかに笑っていた。 「あやつが召喚されたばかりか、あれまでもが関ってくるとは」 十年待っただけの意味はあったか、と。 金の髪を揺らして、彼は奥の暗がりへと歩を進め。 「――誓いは誓いだ。これより起こる烈火の道、見事生き延びてみせよ」 あの夜。 焼け爛れた世界のなかを駆け抜けたように。 この夜より。 泥と血に塗れた忌わしき儀式を勝ち抜いて。 ――そうして再び、 「王のもとへ辿り着くがいい」 深紅の瞳をゆるやかに細めた彼は、優人めいたつぶやきを残し、歩き去る。 |