- /..53 -


-

 帰り道は、行きとは違って和気藹々としたものだった。
 黄色い雨合羽といまいち不似合いな浴衣は浮いていたけれど、なんだかそれにも慣れてきた。人間の順応力恐るべし。
 まあ、そういった外的要素があまり気にならなかったのは、ひとえにと遠坂とセイバーが結構仲良く話し込んでたからだろう。
 俺がそうであるみたいに、も、今の遠坂のほうが何かと話しかけやすくあるようだ。遠坂も、わりかし気楽にそのやりとりに興じてる。セイバーは水を向けられたときに軽く返答するくらいだけど、それなりに楽しんでるんだろうとは思う。
 しかし、なんだな。
 同じくらいの身長のとセイバー、ちょっと抜き出た遠坂。
 そんな構図を後ろから見てると、なんだか、妹ふたりを従えて歩く姉って感じだ。
 ――うん、悪くない。
 髪の色的にも、金髪のセイバーと薄茶色ので、並んだ後ろ姿に違和感ないし。
 ただ――
「何にやついてんだ、坊主?」
 うりうり。と、俺のわき腹をつっついてランサーが笑った。
 今のこいつには、教会で見せた凄みの欠片もない。
「にやついてなんかないぞ」
「いや、しっかりにやついてたな。で、誰を見てたんだ?」
 否定はさらなる否定で返される。
「別に。誰かを特定して見てたわけじゃない」
 ――まあ、強いて云うならかな。
 そう云ったら、
「……」
 あからさまに、げんなりした顔をされた。
 なんでさ。
 家族ってのはいちばん身近な存在だし、とはもう十年来の付き合いだ。ぱっと目が行ったって、別におかしかないだろうに。



 ――そうしてそこに辿り着く。
 遠坂の屋敷と、衛宮の屋敷。
 それぞれの家に続く分かれ道。帰る場所が違うのだから、そして、ここまで共にやってきたのだから、挨拶をすべく足を止めたのは至極自然なことであった。
 が。
「それじゃ。衛宮くん、衛宮さん」
 分かれ道のほうへと足を踏み出した遠坂のセリフは、
「――今度逢うときは敵同士ね」
 ちょっと。
 予想してなかった、“挨拶”だったりしたもんで。

「「え?」」

 衛宮のきょうだいは、そろいもそろって、間抜けな顔で立ち尽くしてしまったのであった。

 : menu :