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「……あんたらね」

 それを見て、遠坂は腕組み。半眼でこちらを睨みつける。
「寝ぼけてない? 私たちは聖杯戦争に参加したマスター同士。と士郎はともかくとして、遠坂と衛宮はいずれ戦うのよ」
「な、なんで?」
 おろおろ。
 さっきまでの和やかな空気は、どこへやら。
 慌てると俺に反して、だが、他の三人はあくまで冷静だった。
「ま、そりゃそうだな。いけすかねえアーチャーの奴と、今度はかっちり決着つけてやる」
「アーチャーのマスター。再戦を心待ちにしている」
「ええ。正直あんたたちが協力してるとなると、手強いけどね。……ま、こっちはその分マスターが優秀だし。甘く見てると痛い目に遭うわよ」
 なんて、丁丁発止のやりとりをしてる。楽しそうに。
 俺とはおいてけぼりで、そんな奴等をただ眺めるばかり。
 ……で、いられるか!
「ちょっと待て遠坂! セイバーも、ランサーも! なんで戦わなきゃいけないんだよ!?」
 ばっ、と、三人の間に身を乗り出して、がなった。
 ご近所迷惑も顧みず。
 横からも飛び出して、うんうんうんと全力肯定。
「そ、そうだよっ。わたしたち、遠坂さんと戦うなんて――いろいろお世話になったのに」
「ん? ああ、それなら気にしなくていいわよ。単に、基本情報さえ知らないのが相手じゃフェアじゃないって思っただけだから」
「気にするっ!!」
「そう? ならこうしましょう。今日、アーチャーが土蔵を破壊したお詫び」
「直してくれただろ、それは!」
「……じゃあ居間にガンド撃ち込んだ分」
「それだって、魔術でぱっぱと補修してくれたじゃない!」
 ――まあ、さすがに菓子にかかった呪いまでは解いてくれなかったが。ていうかあれ、まだゴミ箱に入ってるはずだけど、食ったらどうなるんだろうな。
 んで。
 遠坂の提案を片っ端から却下してると、ふるふると、その肩が震えだした。

「ええいやかましい! とにかくマスター同士イコール敵同士! そんなに聞き分けのないこと云ってると、今夜の休戦協定ぶち破るわよ!?」

 そして響く絶叫。
 ビリビリと電線が震えて、止まってた鴉が飛んで逃げる。
 素早く己の耳を防いだランサーはともかくとして、咆哮をまともにくらった俺たちの耳も、ビリビリ。三半規管グラグラ。
 音を防ぐためでなく、震動をおさめるために、耳に手を当てしゃがみこむ。
「おー、効いた。肺活量すげえな、お嬢ちゃん」
 ようやくおさまったころ手を放したら、ランサーがのんきにそんなことを云っていた。
 その手には、真紅の槍。――ちょっと待ておまえ。
「で? うちのマスターたちはまだゴネそうだが、休戦協定はなしってことになるのか?」
 不敵に笑う群青の獣の横、
「貴女の人柄は好ましい。少々惜しい気もしますが、仕方ありませんね」
 黄金の獣も、牙をむいた。
 ってな。
 だからな。
「おまえらちょっと待てっつの!」
 ゴゴッ、と、その後頭部にチョップをかましてしまった。
 ……俺、なんか壊れかけてないか?
 ま、でランサーとセイバーに膝かっくん仕掛けようとしてたから、どっちもどっちっつーことで。
 さすがにこんなツッコミは予測してなかったらしく、セイバーとランサーは恨めしげに俺たちを振り返り――膝かっくんのためにしゃがみこんでたに、蹴躓いた。
「どわッ!?」
「はわッ!?」
 ――英霊にあるまじき悲鳴をあげて、コケるふたり。
「きゃー!?」
 そして、そのふたりの下敷きになる
 うむ。ナイスだ。さすが俺のきょうだい。
「……生きてるか?」
 鎧と青年、見てるだけでも重そうなふたりに乗っかられたは、まるで車に轢かれたヒキガエルさんのようだ。
「むぎゅう」
 と、本当にカエルになったかのような鳴き声とともに、伸ばした俺の手にしがみつく。
 あとは簡単。ダイコンを畑から抜く要領で、を引っこ抜いた。
 最下層がダルマ落としされたおかげで、折り重なってたセイバーとランサーがバランス崩してまたコケた。ふたりはその後のそのそと起き上がり、何故か、重苦しい表情で顔を見合わせると、遠坂を振り返った。
「……アーチャーのマスター、前言を撤回しよう。今夜はこのまま休戦ということにしてほしい」
「俺からも頼むわ、嬢ちゃん」
 などと、至極真剣な顔でそんなことを懇願している。
「―――――――――そうね」
 云われた遠坂も、遠い目で頷いた。
 いや、まあ、それはありがたいと思うんだけど、なんかバカにされてる気がするぞ?
 しかも、問題はちっとも解決してないし。
「だからさ。今夜だけじゃなくて、これからも、俺たちは遠坂と戦う気はないってば」
 をひっこ抜いた際、したたかに打ちつけた尻をさすりつつ主張。
 が、そんな俺を見る遠坂の目は呆れを通り越して冷ややかだ。
「だから、寝ぼけないで。云ったとおり、私は聖杯が最終目的ってわけじゃないけど、勝ち残りたくないってことじゃないのよ?」
 うん。
 それは判ってる。
 遠坂は“勝つために戦う”って云ったんだ。
 あいつにとって、聖杯は副賞みたいなもんなんだろう。

 ――だからいいんだけど。そう、俺は思う。

「その、さ。まずは、3組で生き残らないか?」
「…………はい?」

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