- ……居間は静まり返った。 衛宮士郎は、心臓に楔を打ち込まれたように凍りついている。片肘をついてやりとりを眺めていたランサーは、楽しげに細めていた目を余計に細め――いや、すがめ。口元も強く引き締め。アーチャーを強く睨みつけている。まったく大人気ない――と顔に書いて成り行きを見守っていたセイバーもまた、責めるような眼差しを赤い弓兵に向けていた。 「アーチャー……」 マスターの声に、彼は視線だけをそちらに向ける。 艶やかな黒髪を赤い服に流した凛が、アーチャーを睨んでいた。 「あんた、いきなりどうしたのよ。――今、衛宮くんたちに失礼なことしたって自覚はあるの?」 「おや……マスターはこのような奴らに何をおもねるというのかね?」 「――っ、そういうんじゃない……! あんたね、他人の理想を頭から否定するなんて、そりゃ、それぞれ相容れないものがあるってのは事実だけど――そういうのは、口に出して、その本人に向けて云っていいものじゃないってことぐらい判らないわけ!?」 ……それはつまり、彼女もまた、衛宮士郎たちの青臭い理想に少なからず呆れはしていたということを露呈していた。 だが、そこをあえて追及して、これ以上事態を悪化させるつもりは、意外だろうがアーチャーにはなかった。 ぎり、と。 この場の何よりも強い視線は、衛宮士郎のもの。 努めてそちらに視線を向けず、彼は立ち上がった。 ――なにしろ、目を合わせたら最後、再び先刻のような問答がはじまることは目に見えていたので。 「アーチャー!」 マスターの怒声も、今はさして気にならぬ。こめられた制止の意図を無視することになって、いつかの令呪のペナルティはたしかにあるのだが――アーチャーの胸にあるのは、ただ、煮えたぎった熱だけだった。 それは悔恨か。 それは憎悪か。 それは激昂か。 ――それとも、それは、また別の。 外套を翻して、居間の出口へと歩き出す。 その背中に、 「アーチャー……?」 多くの問いをこめて投げられた、シラナイダレカの声が、少しだけ。 ……ほんの、ほんの少しだけ。 滾る溶岩を鎮めてくれた。 |