- 水を向けられたランサーは、けれど、そのことについて特に思うところはないらしい。「んー」と少し首をひねって、主観だが、と前置き。 「令呪が、外付け濾過器の役割してるとかどうだ? なにせ、一度空中分解しての方に再構成された代物だろ」 何か面白ぇ特異能力がついてても、おかしかないし――ってこら、なんだか失礼だぞランサー。 「ってのは冗談として。から来るモノはどうも魔術師の魔力じゃねえっぽい」 「え?」 「英霊が星や精霊に近いってのは、昨夜嬢ちゃんが説明したろ。の寄越すモノってな、座にいる俺たちの感じる根源の息吹に似てるんだ」 「…………」 えっと。 なんだか、話が壮大だぞ。 哀れ、当事者ながら話についてけない衛宮さんちのさんは、きょうだいである士郎くんに救いを求めて視線を向ける。けど、士郎もついていけてないっぽい。 そりゃそうだ。 魔術のまの字も関係ないはずの一般庶民が、なんだって、遥か英霊とか根源とかって部分のモノをサーヴァントに供給してるって話になっちゃうのさ。 そんな衛宮きょうだいの困惑などどこ吹く風、ランサーの説明はなおつづく。 「サーヴァントってな仮初に受肉した半霊体だ。だから、座と星からは切り離されてる。本来は、持ち前の魔力とマスターからの供給分しか当てに出来ねえ」 「――そのとおりです」 と、セイバーが同意した。 しかし――これで、未だに考えにふけってるのは遠坂さんひとりになるわけか。たまに首がこくこく上下してるから、話は聞こえてるんだろう。すごいなあ、あの集中力。もしかしたら、十人の話だって聞き分けきれちゃうかも。 そうして、セイバーもランサーの援護。難しい顔したまま、じいっとわたしを凝視して、 「つまり――は、サーヴァントと星を結ぶパスの役割をしているということなのですね」 「……そのココロは?」 「あんまり考えたくないけど――と契約した英霊は、サーヴァントなんて枠に縛られてない、座にある本体の持ってる能力をそのまま発揮できるってことじゃない?」 遠坂さん、満を持して帰還。衝撃的な結論を出してくれる。 「半端に受肉してる分、受け止める側が溢れそうだって問題はあるぞ」 だから調整に力割かれちまうけどな、と、軽く笑って、ランサーがそうシメて。 「――――呆れた」 というより、疲れた顔して遠坂さんは云った。 「供給大きすぎてサーヴァント苦労させるマスターなんて、初めて聞いたわ。……魔術師じゃないわよ、そんなの」 「だから、最初からはそうだって云ってるだろ」 「判ってる。というか、魔術師じゃなくてほっとしたところ」 「……なんでさ?」 「もしもが――この地に無断で住んでた隠れ魔術師が――そういう存在だったとしたらよ。遠坂の魔術師、この土地の管理者として、間違いなく、私はあなたたちを時計塔に連行しなくちゃいけなかったから」 幸いは魔術師じゃないし、士郎はへっぽこ三流強化専門魔術師だっていうし、だからほっとしたのよ。 そう云って苦笑する遠坂さんは、私たちをその時計塔――魔術師の総本山に連れてかずにすんで、本当に安心してくれているみたいだった。 「だから、セイバー。が令呪を解除したのは魔術の領域じゃないわ。綺礼の使う心霊医療でもない、――の能力は還元。魔術じゃなくて、分類するなら超能力者の方だと思う。令呪の移殖はその副作用でしょ」 さすがに、英霊やその武装は密度が高すぎて分解するのは無理そうだけどね、――と。おぼろげだった昨夜のこと、それから少し分類に悩んでたわたしのこと、ある程度だけど、遠坂さんはまとめてくれた。 ……遠坂さんって、本当にすごいんだなあ。 だけど。 そんな彼女をして驚かせた、わたしの能力ってのは。それほどに異端で、人の理から外れたものなんだろうか―― 「さて・と。それじゃの能力もはっきりしたところで……」 不意に、遠坂さんが立ち上がる。 「遠坂?」 「一番の疑問が解消したから、一度家に戻るわ。――こっちも準備があるし、昨夜からぶっ通しでちょっと疲れが溜まってるし、頭の整理もしたいしね」 「あ、そっか……お疲れ様、遠坂さん。本当に、いろいろありがとう」 「お互い様よ。これから共闘するんだから、一々お礼なんて云わないの」 さらりと答えて、遠坂さんは庭におりた。 屋根に漂う大源の凝り――また霊体になってるらしいアーチャーのいるあたりを見、 「アーチャー、一度戻るわよ。説教は家でやるからね」 ――と、実になんでもなさそうに仰るその背中には、とても云い表せないオーラがどよどよと渦巻いてた。 長い話ですっかり立ち消えたかと思ってたけど、どうやら表に出さないでいただけだったようである。……えと。その切り替えっぷりはすごいと思うんだけど、ちょっぴり、アーチャーを哀れに思ってもいいだろうか。さっき屋根で話してたとき、変なモノ見せちゃったのに何も云わないでいてくれたし――――、ね? |